講演レポート

「人事のための実践心理学 〜 採用・配属における見極めの秘訣 〜」ご講演者:株式会社人材研究所/曽和 利光氏、株式会社ビジネスリサーチラボ/伊達 洋駆氏、株式会社リーディングマーク/佐藤 映氏【みんなのHR博覧会 byミキワメ】

本レポートは、2022年7月26日に開催された、「みんなのHR博覧会 byミキワメ」の基調講演の文字起こしです。各テーマに沿って、「はたらく」を「よく」するを徹底的に語り尽くしていただきました。

曽和さん、伊達さん自己紹介

佐藤:皆さんこんにちは。この時間は「人事のための実践心理学」というテーマで講演をさせていただきます。テーマの詳細は「採用・配属における見極めの秘訣」です。

本日は2人のゲストをお迎えし、パネルディスカッション形式でテーマに沿ってお話をさせていただきたいと思います。司会は私、佐藤が務めさせていただきます。 早速、ご登壇のお2人をご紹介します。

曽和:皆さんこんにちは。人事コンサルティング会社「人材研究所」代表の曽和と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。もうちょっと話したほうがいいですか(笑)?実は『採用面接100の法則』という本を出させていただきまして、よかったら買っていただけるとありがたいです。

40歳ぐらいまでずっと人事の実務家をやってきました。10年前に起業して今に至る状況です。現在は大企業や中小企業からベンチャーまで、さまざまな地域で人と組織に関するお手伝いをしています。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

佐藤:よろしくお願いします。では続いて伊達先生、よろしくお願いします。

伊達:皆さんこんにちは。ビジネスリサーチラボの伊達と申します。私はもともと神戸大学大学院経営学研究科で研究者としてのキャリアを歩んでいたのですが、その途中でビジネスリサーチラボという会社を立ち上げて現在に至っています。

ビジネスリサーチラボという会社は、人事領域において研究知見を活用したデータ分析のサービスを提供しています。今日は研究知見を皆さんに紹介する立場でお話できればと思います。よろしくお願いいたします。

佐藤:ありがとうございます。私の自己紹介も一応させていただきます。佐藤と申しまして、本日のイベントの主催でもあるリーディングマークの、組織心理研究所というところに所属しています。

もともとは京都大学で臨床心理士の資格を取得し、その後「ミキワメ」という性格検査の開発に協力したことがきっかけで、当初は外部からお手伝いしていたのですが、現在は入社し、直接組織分析であったり、社員の方々に性格検査をより正しく使っていただきたい、というところでサポートしています。 本日は司会という立場です。よろしくお願いいたします。

パネルディスカッションの3つのテーマ

佐藤:今日のパネルディスカッションのテーマは、3つ用意しています。これは私がお2人の現場・学術の知見からお伺いしたい点も含めたテーマ設定です。

採用の時にそもそも性格を見極める必要があるのか、あるいは見極めにおいてどういうところに注目した方がいいのか、という点が1つ。

それから、実際に採用した人材により適切に活躍してもらうために、どのように配属配置を考えたらいいのか。あるいは上司と部下の相性を見極めることが可能なのか、実践事例はあるのか、といった点が2つ目です。

それから3点目ですね。各社によって異なりますが、活躍社員をどういうふうに定義していけばいいか、実践例を含めてお伺いしたいと思います。 前半30分ほど話をし、後半の15分を Q & A という形で皆様からのご質問に回答したいと思います。

採用時の見極めにおける注目点

佐藤:早速ですけれども、見極めということで、採用の時にどういうところに特に注目すべきなのか。カルチャーフィット、あるいはスキルフィットなど色々あると思うのですけれども、そのあたりについて曽和さんいかがでしょうか?

曽和:まず面接での見極めという点のお話をします。面接の際に候補者の方が色々言ってくると思うのですけれど、大きく分けると「過去にやってきた具体的な事実や属性」と、「入社してやりたいこと、自分の強み、なりたい人物像」といった主観的な考えや意見の2つに分かれます。

基本的にはまず事実に着目して、そこから類推して「こういう場面でこんなことをやっている人だから、こういう性格かもな」とジャッジしていく。こういうのが大事だと思います。これが1つ目です。 ただし、特定の場面において成し遂げた話だけで性格や能力を見極めていいのか?というと、一発屋っていますよね、その時だけ出来たみたいな。

そのため2つ目は、「再現性を見るために、他のところではどうかチェックする」という点です。 この場面でこういうことができたから、こういう性格かなと類推したあとに、「他にその性格が活かされた部分はありますか?」という場面の再現性をチェックするための質問が大事だと思っています。

最後は、それが根付いた性格・能力なのかを判断するために、性格を生み出した原因を探ります。生まれてこのかた、というケースもありますが。僕はライフヒストリーや歴史と言っているのですが、特に思春期にアイデンティティが形成されることがありますよね。昔からの人事の格言に「高校を見ろ」という言葉がありますが、一理あると思うんです。どのように性格が形成されていったのか、歴史を聞くということですね。これがいつも気をつけているポイントです。

シンプルに言うと、事実を聞くことでいったら「たとえば?」とか「具体的には?」と聞けばいいですよね。再現を見ようと思ったら「他には?」、歴史を聞こうと思ったら「きっかけは?」などです。「たとえば」「他には」「きっかけは」といった言葉だけ頭に入れておいて、困ったらその質問を出していけば、性格を見極めるために必要な情報が入ってくると思っていて、面接ではよく実践しています。 細かく質問しようと思ったら色々あると思うのですけれど、面接するうえで色々頭に思い浮かべるのはなかなか難しいので、「たとえば」「他には」「きっかけは」の3つだけ覚えておけば、できると思うんです。もちろん情報収集の面だけなんですけれど、そこは気をつけています。

佐藤:ありがとうございます。具体的なエピソード、カウンセラーの中では生育歴と言うのですが、そのようなものを見ていくってことですね。

曽和:そうですね。基本的に面接試験というのは普通の会話と違って、アピールしようと考えますよね。「盛る」って言葉がありますけど、これをかいくぐり、本当のその人の性格・能力を見極めようと思うと、ファクトとそうでないものをちゃんと見分けていきながら、突っ込んでいくのが大事だと思います。

特に最初の「事実を聞く」がすごい大事です。当たり前のことだと思われそうですが、面接の動向などを分析してみると、具体的な事実を押さえることが一番できていない採用担当者が多いんです。なぜかと言ったら、例えば僕と佐藤さん、伊達さんで話している時は、阿吽の呼吸で色々話していますよね。かっちり言われなくても、こういうことかな?と想像しながら話が進んでいくと思うんです。これを面接でやってしまうと、相手が言ってもいないことを、勝手な想像で埋めて理解を間違えてしまう、みたいなことがあります。 あえて物わかりの悪い人間になって、「なんとなくわかるけど一応もう1回聞く」といった感じで事実を確認するのが大事なことのように思います。

佐藤:そうですね。バイアス的なもので、自分が「こうだろうな」というものを事実にしてしまいがちですよね。

相手への印象はコンマ数秒で形成される

佐藤:伊達先生の考えはいかがですか?

伊達:そうですね。普段交わされる一般的なコミュニケーションでは、たとえば曽和さんや佐藤さんと話している時に、「それは事実なんですか?」といちいち聞かないですよね(笑)。 ただ、見極めにおいてはそれが大事なんです。

なぜかというと、能力や性格の見極めに関して、放っておくと、人は早い段階で見極める傾向があるんですよ。無意識のうちに相手を見極めてしまっています。 0.数秒で相手の印象が形成されるという研究もあるぐらい、人は瞬時に相手のことを評価してしまうんです。

ただ、それは先ほど佐藤さんがお話しされたように、そうした即時的な評価はバイアスに絡め取られたものになります。少し落ち着いて、さまざまな情報をいろんな角度から収集していくことが重要です。

曽和:以前伊達さんがおっしゃってましたけど、一旦置くと冷静になって精度が高まる、みたいな話もありましたよね。

伊達:いいパスありがとうございます(笑)。面接において見極めをしていく時に、皆さんはどのタイミングで面接の評価を下していますか?たとえば、できる限り記憶が鮮明なうちに判断しようと思い、面接が終わった後にすぐ合格や不合格を判断するケースもあると思います。

しかし、実はこれ、バイアスが滑り込んでくる可能性が高まります。 たとえば一晩寝かせて前日のことを振り返り、もう一度考えてみる。このようにすると、冷静になって面接内の出来事を確認できるので、バイアスがいくらか抑制されます。評価のタイミングをちょっと後ろにずらせば、バイアスを抑制できるんですよね。

曽和:これも難しくて、実務的にいうと、面接が終わったらすぐに合否判断するオペレーションを採用担当としてはやりたくなるのですが、実はそれによって精度を下げている可能性があります。 1日10人面接するとしたら、10人終わってからもう一度振り返り、まとめて判断すればいいのですけれど、そうすると次のアポ取りが少し遅れてしまう。そこらへんはバランスですよね。あまり早くやりすぎると、実は精度が低いままジャッジしてしまうことがあるんです。

伊達:2回判断するタイミングを持つことが、まず大事かなと思います。一晩待つのが難しいとしても、例えば30分でもいいので、少し寝かせて再度、面接の状況を振り返って考えてみるだけで変わってきますね。

曽和:エビングハウスの忘却曲線みたいに忘れていく気もするんですが、もしかしたら、バイアスのほうをより忘れていくのかなと。 事実はメモもあるので残しておけて、いらない印象やバイアスなどを捨てていけるから、精度が高まる。バイアスが減ってファクトに基づいた評価ができるってことですかね。

佐藤:そうですね。印象も併せて記録していくことが工夫だと思います。最初にいい印象がしたのか、ちょっと微妙な印象がしたのか、あとで振り返った時になんでそう思ったのか、といった点を振り返れますよね。

曽和:面接評定票の作り方も大事です。印象は印象欄を作り、事実は事実欄にまとめるなど工夫したほうがいいかもしれません。

佐藤:先ほど曽和さんがおっしゃってましたけど、候補者の主観的な考えなのか、事実なのか聞いていくこともそうですし、面接官側が記録する内容も、面接官の主観なのか、聞いた事実なのかを分けて記載したほうがいいですよね。

曽和:面接評定票を見る機会も多いのですが、ごっちゃなんですよ。それは分けたほうがいいです。ただし、印象も重要な情報なので、「なんとなく胡散臭い」とか「言っていることは正しいけど」というのは書いたほうがいいと思うんです。 あとの担当者が、胡散臭さは何から出ているのか?みたいな話を次の面接で集中してやるってこともできますしね。

佐藤:おっしゃるとおりですね。カウンセリングの初回面接でも「臨床像」という形で、どういう服装か、といった点などを記載したりします。

採用されやすい人材とは?

佐藤:今のお話ですと、聞く内容としては事実であったり、継続している習慣を探ったり、生育歴などを聞いていくということですね。ただし、印象形成に関しては、一旦引いた目で見る。自身がどう印象を持ったのか、時間を置いて判断するのが見極めにおいて重要だというお話だったと思います。 「こういう性格の人だと採用されやすい」とか、採用のときに自社のカルチャーに合うのか重視したりすると思うのですが、どれくらいそれらが重要な要因になりえるのでしょうか?

曽和:『採用面接評価の科学』という本を書かれている研究者の方がいるんですけど、その研究者から「面接という手法を用いると、自社の基準がどうであれ、外向性が高くて情緒が安定している人が底上げされて評価される」みたいな結果があると話を聞いたことがあります。 逆に誠実さとか知能とかは、面接でなかなか見ることができない。そんな話を伺ったことがあります。伊達さん、他にもあります?

伊達:ある研究によれば、面接官としては真面目な性格の人を雇いたいと思っている一方で、実際に面接していくと、曽和さんがおっしゃったとおり、外向性、すなわち明るくて陽気な人を高く評価してしまう傾向があります。 外向性の高さを評価する傾向は、日本に限りません。世界的に検証されていることです。人が人を評価するときに、どうしても明るい人のほうが高く評価されやすいんです。

曽和:オンラインになると変わるんですよね。

伊達:そうですね。オンラインだと非言語情報が減り、言語情報に注目が集まるようになります。たとえ外向性が低くても、きちんとした内容を話している人が得をするかもしれません。

曽和:すごいざっくり言うと、内向的で緊張しやすい人は、選べるんだったらオンライン選考選んだほうが候補者側としては得だってことですかね。

伊達:そのとおりです。オンラインのほうが緊張もしにくいことがわかっていますしね。

佐藤:なるほど。自社でどういう人が欲しいとか以前に、割と性格に引っ張られて評価してしまうところがあるんですね。

曽和:むなしいなと思うのが、自社で基準作るじゃないですか。それを面接官にインプットして、「はい、やってください」って言ったら全然違う基準で見てるとか。 たとえば「ミキワメ」を使ってみると、面接官がどういう性格の人を合格させて、どういう性格の人を落としているのか分析できますよね。そうすると、全然違う基準で落としていることがありますよね。

佐藤:おっしゃるとおりです。たとえば、グループディスカッションと面接の2工程を分けた時に、グループディスカッションでは協調性の高い人が合格しやすいんですけど、面接だと自己主張が強い人が合格する。協調性の高い人は、自己主張がそれほど強くないことがあるので、面接の時に評価が下がってしまったり。どちらを重視したらいいのか、みたいなことは起こりがちですね。

配属配置の重視ポイント

佐藤:また、入社後にどこへ配属配置するか考えると思います。そういう時にはどういうポイントが特に重視されやすく、どういうところを重視すべきでしょうか?

曽和:配属配置については、今まで色々なところで関わってきました。能力、性格、価値観が判断軸にありますが、能力と価値観ばかり見ていたように思えます。 なぜかというと、現場の人が「こういう能力を持っている人がほしい」とオーダーしてくるので、マッチングしようと考えてしまうからです。

内定者も「こんな仕事がしたいです」と価値観を示しますよね。結果、性格を抜きにして配属を決めていたなぁと。 能力も価値観も合っている、だけど性格が実は合っていない。結局、問題が起きるところは、後から振り返ってみると、上司・同僚・新入社員の性格の不一致が原因だったりします。辞める理由もそこだったりしますよね。 僕もそうでしたし、おそらくご覧になっている多くの企業さんでも、性格をマッチングの要素にしていないところが多いのではないでしょうか。

逆にいうと、そこを改善すれば、採用した人材を活躍させる伸びしろがあるんじゃないかなと。 やれてないことだからこそ、そこが変われば可能性があると思うんです。配属に関していうと、性格の相性をより解像度高くやっていくのがすごく重要な気がします。

部下が上司をどう見ているのかが大切

曽和:配属と性格・相性といったテーマの研究例はありますか?

伊達:相性に関する研究自体がそんなに多くないんですよね。ただ少し興味深いことがあります。たとえば、上司と部下の関係性については比較的多くの研究がされているんです。

上司と部下の関係性って、どういうふうに測定すると思いますか? 実は研究をたどってみると、部下に尋ねるんですね。上司との関係性はどうですか、と。これは相性の問題にも示唆があるのではないでしょうか。部下から見た時の相性が、部下のパフォーマンスや適応に関係してくるかもしれません。

曽和:上司の片想いとかもありますもんね。かわいがっていると思ってたら、本当は嫌がられていたとか。

伊達:客観的には相性がいいはずなのに、部下から相性が良くないと思われてしまうと、結果的にうまくいかない、なんてことも起こりえます。部下側の主観が重要になってくるんだろうなと思いますね。

曽和:部下が上司をどう思っているかが一番大事な相性ってことですね。でも、上司が「こいつムカつくなあ」みたいな感じになっていたら、それはそれでマイナスですよね。

伊達:おそらく部下もあまり良い思いをしないので、部下のパフォーマンスに悪影響がありそうです。

曽和:好意の返報性じゃないですけど、好きになってくれたら好きを返すみたいなところがあるので、結局は両方大事なのかなって気もします。そのあたりはミキワメで見たりとかもしているんですか?

佐藤:そうですね、上司と部下の性格がどう違いそうか、といった点は今の話の通りです。上司がいかにその部下と信頼関係を作るか、そのためにどう部下へ寄り添ったマネジメントができるかとか。傾聴みたいなことも交ぜながらだと思うのですけれども、特に最初の段階では、信頼関係を作るために上司側が意識して「何ができるか」と考えるのが重要だと思います。 部下側から意識しても、なかなか変えづらいとこがありますよね。そのあたりは比較して、違いを伝えたりしています。

曽和:前提として、お互いが性格を理解し合っていることが大事だと思うんです。どんな人に対してもOKな言い方なんてものはありませんよね。同じ言い方しても、なんか腹立つなという人もいるし、いいなと思う人もいるので。そこらへんを見るのが大事だと思います。

相手に応じたコミュニケーションを図る重要性

曽和:あと難しいなと思うのが、似ているという関係性はわかりやすいですよね、上司と部下が似てるな、といったように。補い合っているとか、性格は違うけれどもいい噛み合わせになっているとか。これって本当に奥深いというか深い世界だと思うんですけど、なかなか研究されていない分野ですよね。

伊達:はい、あまり研究はされていないですね。ただ、全く同じ性格を持った人は、自分以外にはいないはずで、何かしらの違いがあるはずです。その違いを対立的なものにするか、補完的なものにするのかは、お互いの調整次第だと感じます。 お互いの性格の違いがわかった上で、調整しようという気持ちを持てるかどうかがポイントです。

佐藤:つまり、上司の個人的な経験や考え方から「自分はこういう教育を受けてきたから、これが正しい」とやってしまうというよりは、相手を見ながらどう噛み合わせていけるかなんですね。

曽和:単純ですけど、「人を見て法を説け」ということですよね。基本的に管理職になっている人は成功体験を積んでいて、自信があったりしますよね。「俺はこのスタイルでマネジメントしてたよ」とか、あるいは「俺はこういう仕打ちに遭ったから仕返ししてやる」とか。認識していないかもしれませんが、結構人ってやられたことが出ますよね。

管理職の方が大変だなと思うのは、自分たちが新入社員だった頃はパワーマネジメントをされてきたのに、今だと心理的安全性みたいな感じで、されてこなかったことをやる必要があるんですよね(笑)。虐待の連鎖を俺で止めなきゃ、みたいなところがあるんで、そこが今の管理職の難しいところで、頑張りどころという気がします。

伊達:マネージャー同士がコミュニケーションを取る機会も大事です。たとえばマネージメントというと、正解があると思う人もいるかもしれません。でも、相手によって行動を変えるべきなんですよね。 そうなると、関わり方のパターンに注目すべきです。どれだけパターンを知っているか、行動に移せるか、ですね。ただ、自分の経験だけだと限界があります。他のマネージャーと話して、「そんな関わり方もあるんだな」とパターンを豊かにしていきたいところです。

曽和:マネジメントのトレーニングをする機会が多いのですが、マネージャー同士がお互いのマネジメントについて共有しているケースは少ないですね。他人のマネジメント方法に対して口を出すのを遠慮してしまう、そういうところがあると思うので。 意図的にそうしたコミュニケーションの場を作り、「この人はマネジメントこんな工夫していたのか、俺も真似しよう」みたいな動きが出るといいですよね。そういうのを本当はもっと簡単にやればいいと思うんですけども、多くの場合できていないんですよね。もったいないなと思います。

伊達:聖域になってしまっているんでしょうね、ある意味で。部下とのやりとりが可視化されず、職場に閉じてしまっているわけです。部下のことを配慮しつつ、その辺りをマネージャー同士で共有すれば、学びに満ちていますよね。

活躍社員を定義する方法

佐藤:そのあたりは本当に臨床的なポイントだな、と思います。次のテーマにも絡めつつなんですけれども、今の話はダイバーシティや多様性みたいなところで、色々な価値観・考え方の人や色んな国籍の人が入ってくる中で、よりマネジメントの柔軟性が求められているように感じました。

一方で、たとえば自社で活躍している方とか、自社にフィットしてうまくいく方というのは、一定の価値観・考え方を持っている方の可能性が高かったり、そもそも採用時や配属配置から適正配置することで活躍しやすくするとか、いろんな考え方があると思うんです。 そもそも活躍するかどうかをどうやって決めていけばいいのか、あるいは活躍しそうな性格の人ばっかり採ろうとすると、多様性が失われてしまうんじゃないか、とか。そのあたりの問題についてはどのようにお考えでしょうか?

曽和:実際に活躍している人達を分析して抽出し、その要素を持っている人を探すというのは、拡大再生産するような話になると思うのですが、佐藤さんのおっしゃるように、事業も変わっていきますよね。 あるいは「こういう人がいい」と思ってみたところ、そんな性格な人はあまりいないみたいな。あとは同質性についても、たとえばストレス耐性の強い人ばかり採っていくと、どんどん鈍感な会社になっていきます(笑)。 ストレスに弱い人を誰も入れない会社にしてしまうと、誰も採用できなくなりますよね、鈍感力の塊みたいな会社になる。それも駄目じゃないですか。短期・中期・長期のどこら辺で人を採用していくかによって、活躍社員の定義は変わってくると思います。

要はバランスだと思います、経営方針に関連するといいますか。今は頑張りどころだから「短期で活躍できる人」と考えたり、同質化によって問題が起こるかもしれないけれど、今は同質して余計なことが起こらないようにするんだ、と考えたり。事業のステージや、どこら辺のタイムスパンで見ていくかによって変わってくる気がしますね。

伊達:私もよく「活躍するってどういう意味ですか」といった質問を受けます。そのたびに返しているのが、「それは私には決められない」というものです。こちらで決められる問題ではありません。 自社で考える必要のある大事な問題だと思うんです。

活躍を定義するとは、どのような社員を良いとみなすかという「良さ」の定義だと思います。良さの定義は会社によって違いますし、異なるべきだとも思います。 ただ、しっかり考えて決めることが重要なのは共通しています。それをしないまま、なんとなく「こういう人がいい」と曖昧に決めるのは危険です。

活躍する社員の定義をどのように考えるか

佐藤:定義がぼんやりしてしまうと、社交的で印象がいい人をたくさん採用したりとか、向いていそうな感じでなんとなく配属したりという感じになってくるため、そこはもう少しサーベイをとってみたり、社内での評価基準を定めたりして、逆算して考えていく方法がいいのでしょうか?

サーベイ_種類_メリット_デメリット
サーベイの意味とは?9つの種類と導入するメリット・注意点を徹底解説サーベイとは、社員の満足度や組織への信頼度を把握するための調査です。調査結果を分析し改善することで社員の満足度が向上します。本記事では9つのサーベイ種類と導入するメリットを詳しく解説しています。...

曽和:今活躍している人から聞くのが、現実的には多いと思います。ただそのとき、現場の人の特徴を調べるのはいいと思うのですが、現場の人の意見が間違っているケースもあるんです。 昔、トップ営業マンはどんな人かリクルート時代にヒアリングしたら、「根性」「やる切る力」とか言われて、そうなのかなと思っていたんですけど(笑)。

実際に営業へ同行すると、事前に入念なリサーチをしていたり、普段しゃべるのが好きな人なのに、お客様の前では聞き役に徹していたんです。帰ってから超スピードで提案書を出すとか。もしかしたらこっちのほうがトップ営業たる所以(ゆえん)なんじゃないかと。 でも営業の人にヒアリングしてみても、その人にとってみたら無意識にやっていることだったりするので、「根性」とかになるんですよね。それを聞いて根性ある人を採ろうと考えると間違えてしまいます。事実を抽出するにしても、客観性を持たないといけません。

もう1つは、理論から攻める必要がある点です。うちの会社の営業は、ベスト・オブ・ベストを集めていて、これ以上の人はいないという感じであれば、それを再生産すればいいのですが、おそらくそうじゃないですよね。 職務適性理論や「リーダーはこういう資質を持っている」といった理論がありますよね。そういうのを参考にして、「自社にはいない人材だけど、理論上良さそうな人材を一回探してみよう」というアプローチが必要な気がします。

伊達:人のパフォーマンスを予測する特徴は、さまざまな研究で検討されています。研究知見を参考に考えてみることも良いかもしれません。 曽和さんのお話で興味深いと思ったのが、本人でさえ自覚できていない特徴の重要性です。ぱっと見でわからない特徴を、活躍社員の特徴と認識できると、採用の時に有利です。他社にも気づかれにくいですし、採用上の競争優位に繋がります。

佐藤:性格要素や本人も自覚していない部分を測定したり、どこかに注目することで発見できるようになれば、それが強みになっていくということですね。 ちょっと時間も進んできているので、質問にお答えする時間に移ります。

採用DXのメリット・デメリット

佐藤:採用DXしていく……データを取って候補者の情報を集めて、それをより活用していく、効率化していくことだと思うのですが、採用をDX していくことに関するメリット・デメリットはどのようなものでしょうか?

曽和:いろいろな DX があると思います。見極めの部分でいうと、サンプルセレクション問題などと呼びますけど、落とした人のデータが取れなかったり、辞退した人のデータが取れなかったりしますよね。最終面接前ぐらいに適性検査する場合は、そこからのデータしか入手できないので。 そうすると、求める人物像が来ていないのか、逃げられているのか、落としているのかが不透明です。データの取り方に気をつけないと、ミスリードに繋がる点がデメリットだと思います。

分析における問題もあります。たとえばハイパフォーマーの分析をして、「ハイパフォーマーの人たちの平均値はこれだ」とやったら誰でもない人になるというか。W型の人とM型のプロフィールの人が同数いて、平均とったらまっすぐになりますよね、誰やねんみたいな(笑)。 いろんなパターンのハイパフォーマーがいるはずなのに、平均値を取ってそれを目標に設定してしまうと、ミスリードに繋がります。データで可視化されることによって、分析が間違っていても明確さゆえに引っ張られますよね。そこらへんがすごく危険な感じがします。

佐藤:本当にそうですよね。今のデータの話でいうと、弊社でも平均値を出してハイパフォーマンスはこうですよね、という話があります。ばらつきが大きい場合やハイパフォーマーに個人差がある場合は、平均値の見かけは「これが高いよね」となっていても、実はその数値がハイパフォーマーによってバラバラで、そんなに強いファクターじゃなかったりします。 ばらつきを見て初めてわかるところがあるので、そこはしっかり見た方がいいかなと思います。

伊達:そうですね。きちんと統計分析するのが大事です。データは数値で可視化されます。数値で可視化されると、人は影響を受けるものです。もし、取るに足りない差を強調して対策を打ったとしたら、どうでしょうか。その判断は問題があると言えます。 問題のある判断をすると、大変ですよね。

採用に限らず、人事は社員の職業人生に関わる意思決定をしていますから。少しでも誤りの可能性を減らしていくために、ぜひ統計分析をやっていただきたいと思います。

曽和:これ間違えてしまうと、正確に間違った方向へ全力で走る、みたいなことになってしまいますよね。

佐藤:これだって思っていたのが、実は違っていたり。

曽和:それだったら、ぼんやり適当にやっていたほうが多様性も生まれてよかったんじゃない?ということになるので(笑)。やるなら徹底的にやらないと駄目ですよね。

採用結果を継続的に評価する

佐藤:時間もあと3分ほどになってきました。最後の質問です。 「美しい言葉だけで共通認識になっている感じがします。なかなか違いに気づかない、気づこうとしていないところがあり、政策転換の段階で表面化してしまう。経営層が対話で前提を合わせる必要があると思います」との質問です。コメントに近いですね。

そもそもどういう方を活躍しているとみなすのか、といった点をより深く対話すべき、ということですね。そもそも経営層の皆さんが、経営策として「こういう人が活躍できるかな?」みたいなことや、活躍について考えていったほうがいいのでしょうか?

曽和:いつ振り返るかなんですよね。たとえば50人ぐらい採りたいといって50人採れたからOK、みたいな感じかというと、そうではないんです。4年後5年後、育成スパンの長い会社だったら10年後ぐらいに開花してくれたらいい、というケースもあるので、節目を設けて振り返るのが大事な気がします。

リクルートにいたとき、最後にやった仕事がそれでした。採用時の評価と5年後の評価を比べる感じです。入社時に実施した面接評価と適性検査の評価データを利用します。 面接評価の相関性を確認してみたところ、残念ながら面接評価だと相関関係があまりなくて(笑)。でもこれはサンプルセレクションで、落とした人や逃げられた人が含まれていないデータでやっているから相関がなかった、と思っているんです。言い訳ですが。 でも適性検査にはありました。当時はSPIでしたが、活動意欲、エネルギー量、数学、これらは高い相関関係がありました。けっこう嫌味を言われたんですよ、面接やらなくてもいいんじゃないの?と(笑)。

分析の仕方や結果はともかく、自分がやってきたことを何年後かに振り返ることが大事です。ただ大手企業だと人材が流動化するので、これは駄目だと指摘したくても、「それは何年か前に○○さんが担当した業務です」みたいなことが起こりえます。それが難しいですよね。

佐藤:担当者が変わったり、データが引き継がれていかなかったりしますよね。長い目で見た時のデータ分析は、難易度高いですよね。 そろそろ時間です。本日は曽和さんと伊達さんにお話いただきました。ありがとうございます。

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