講演レポート

「メルカリ流 エンゲージメントの高いチームの作り方」ご講演者:株式会社メルカリ/木下 達夫氏【みんなのHR博覧会 byミキワメ】

本レポートは、2022年7月26日に開催された、「みんなのHR博覧会 byミキワメ」の基調講演の文字起こしです。各テーマに沿って、「はたらく」を「よく」するを徹底的に語り尽くしていただきました。

エンゲージメントの高いチームの作り方

飯田:はい、皆様お待たせいたしました。みんなのHR博覧会 byミキワメ。最初の基調講演には、メルカリから木下CHROにお越しいただいています。どうぞよろしくお願いいたします。

木下:よろしくお願いいたします。

飯田:この時間は「メルカリ流 エンゲージメントの高いチームの作り方」と題しまして、木下さんからお話をいただきたいと思います。 最初にご講演いただき、後半は皆さんに寄せていただいた質問を私が視聴者代表として質問したいと思います。 それでは木下さん、よろしくお願いいたします。

自己紹介&メルカリの概要

木下:それでは、メルカリのエンゲージメントの取り組みについてお話しさせていただきます。まず簡単に自己紹介をします。
私はP&Gに5年、GEに17年といったように、外資系のHRのキャリアを歩んできました。3年半ほど前にメルカリにジョインしています。メルカリのグローバル化に貢献するというところで3年半やってきました。

それでは、メルカリの概要についてお話しします。メルカリは9年前に「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを掲げて誕生しました。循環型社会の実現、というミッションに共感してジョインしてくださる方がほとんどです。

そのなかで順調に業績を伸ばしている状況です。昨年9月には、お客様の数が月間で2千万人を超え、年間の流通総額が一兆円に近づいています。東証プライム市場に上場したこともニュースになっていました。

拠点としては、日本とアメリカに約2千人の従業員がいます。直近でインドに開発拠点を立ち上げようとしていて、いま積極採用中です。これはソフトウェアエンジニアの獲得を目的とした開発拠点、という位置づけになっています。

「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションの実現のために、世界中からソフトウェアエンジニアを中心とした人材獲得に注力している状況です。面白いことに、メルカリ東京オフィスに所属する社員の出身国が、計50カ国と非常に多国籍になっています。日本のフリマアプリ事業のエンジニア部門に限定すると半数が外国籍なので、非常にインターナショナルな組織といえます。

ハイコンテクストからローコンテクストへ

木下:多様な人材が集まる組織で、どのようにエンゲージメントをやっていくか。大事な前提条件が、いかに「ハイコンテクスト」から「ローコンテクスト」へシフトしていくかという点です。

特に今みたいにオフィスで一緒に働いておらず、一人ひとりが自分の家で働くことが主体になっている働き方において、ローコンテクスト化が非常に重要だと思っています。あとから出てきますが、エンゲージメントにおいても重要な要素だと考えています。

このローコンテクスト化において、大事な役割を占めているのが共通言語化です。組織の価値観を言語に落とし、みんなで共有することを大事にしています。

メルカリの3つのバリュー

木下:メルカリでは「Culture Doc」というものを作っています。これは会社の考え方、組織や人に対する考え方を言語化したドキュメントです。入社前から共有し、入社したあともCulture Docを見て、いかに体現していくか意識しています。 軸をしっかりさせることが、エンゲージメントの高い組織を作るために大切だと思っています。

このCulture Docの中にまず書いてあるのが、ミッション、そしてバリューです。メルカリには3つのバリューがあります。 1つ目は「Go Bold(大胆にやろう)」。これが好きで入る人が本当に多いですね。2つ目が「All for One(全ては成功のために)」、チームワークですね。3つ目は「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」ということで、一人ひとりが自立した働き方や専門性を有し、向上し続けることにコミットしています。

メルカリが大事にしている価値観

木下:この3つのバリューに加えて、メルカリが大事にしている価値観(Foundation)を紹介していきます。

1つ目が「Trust&Openness」です。以前は「性善説」という言い方をしていました。ただ、性善説だと外国籍の方がなかなかピンと来ないので、「Trust&Openness」に変えています。相互に信頼関係を持つことでルールをできるだけ作らない、という考え方であったり、社内の情報共有度をできるだけオープンにしたりしています。「マネージャーは情報格差でマネジメントしない」ということもメルカリでは徹底しています。すごく情報共有度が高く、逆に情報の洪水に溺れる現象が起きているので(笑)、そこのナビゲーションも併せて重要かなと思っています。

もう1つのFoundationとして「Diversity&Inclusion」という考え方を、3年前にCulture Docを作ったときに入れました。国籍や性別といった表面的なことだけじゃなく、働き方やライフスタイル、家庭環境の違いも多様性だと思っています。多様なメンバーがいかに一緒になって「All for One」、1つのミッション・ゴールに向かって連携し、大胆な挑戦「Go Bold」を仕掛けられるかという点を意識して取り組んでいます。

組織の健康診断「eNPS」の測定

木下:メルカリでは3カ月ごとにエンゲージメントサーベイを実施し、定点観測しています。そこで「eNPS」というものを使っています。これは、メルカリという会社を他の人に勧めたいと思うか?という指標です。プロダクトのNPSがありますが、それの会社版がeNPSといえます。 コロナに入る前からのトレンドを、今グラフで表示しています。右肩上がりで非常にエンゲージメントが高い状態で、しかも向上し続けていることが確認できています。

メルカリは、もともと会社に来る「原則出社」というスタンスでした。コロナで従業員がフルリモートになり、どうなるかな?と心配でしたが、なんとか新しいやり方が見つかり、うまくニューノーマル、新しい働き方に適応できたとチャート上からも確認できています。

エンゲージメントを高めていくためには、何でもやればいいというものではありません。その組織にとって、エンゲージメントの向上に繋がる大事な因子があると思っています。メルカリの場合は、スライドに「相関性が高い項目」と書いていますが、仕事のやりがい、成長の実感、マネージャーへの信頼、そして一人ひとりの心身のコンディション、つまりウェルビーイングですね。この4つが高い場合にはeNPSも高くなる、という関係性がわかっています。この相関性が高い項目に対し、しっかり打ち手を考えるのが重要です。

XデータとOデータがエンゲージメント向上のカギを握る

木下:ここにXデータとOデータということを書いています。いわゆるエンゲージメントを高くするためには、組織の構成メンバーがどんなインサイトを持っているかを知る必要があります。

これはお客様を理解する消費者理解と同じようなアプローチです。そのときにXデータとOデータが大切だと思っています。 Xデータは、先ほどのサーベイなどで集まってくる従業員の声ですね。Oデータでは、色々なタッチポイントで人事データが形成されています。これは従業員のデータベースからもわかるところで、たとえばサーベイから「成長実感」というキーワードが出てきて、成長実感にギャップがある部分はどこだろう?と考えたときに、部門なのか、階層なのか、属性なのか、あるいは特定の社員体験をした人がそうしたギャップに繋がっているのか?という点を分析していきます。

人材データベース_目的_項目_メリット
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これでわかった1つの事例があります。新入社員が入社して3〜6カ月ぐらい経った頃に、我々が「ハネムーン期間」と呼んでいるものがあります。入社した人は、通常の社員よりも最初エンゲージメントが高いんです。それがだんだん普通の社員と同じ程度になってくる流れがあったのですが、コロナ禍になってからハネムーン期間が無くなってしまいました。 ここに対して集中的に取り組みました。「じゃあ、コロナ前と比べてどこに変化があったんだろう?」と。入社してまだ3〜6カ月未満の方がどんな経験を得ていて、どこを改善すると元のハネムーン期間が復活するかを分析し、それをオリエンテーションやオンボーディングのプロセス改善に繋げました。

結果として、今はハネムーン期間が復活しています。今はフルリモートでのオンボーディングになっていますが、フェイス・トゥ・フェイスでやっていたオンボーディングと変わらない体験が実現できています。これが、XデータとOデータから分析した1つの例です。

PDCAを回して従業員エンゲージメントを高める

木下:このように何かの問題をサーベイで取るからには、しっかり PDCAを回すことが大事です。サーベイを取りっぱなしっていうのは、よくあることだと思います。

小さい規模でもいいから試してみて、ある程度成功体験を積んだものを全社展開するみたいな形で改善サイクルを回していくと、右肩上がりが実現できると思います。 進めていくうえで、社内にうまくいっているチームと、まだまだ遅れているチームが出てきます。

大事なのは、「うまくいっているチームが、どんなことやっているか」という点です。ある程度パイロットしてみて、そこで出てきたアクションをベストプラクティスとして社内共有していきます。アクションメニューという言い方をしているのですが、そのメニューリストの中から、それぞれのチームで何が一番機能するかということを、チームメンバーやマネージャーが一緒になって選び、HRBPのサポートのもと、取り組むようにしています。

大事なのは、チーム単位で動くことです。マネージャー、経営陣、人事などがやるのではなくて、そこにいるチームのメンバーが力を合わせ、自分たちのチームのエンゲージメントレベルが高くなるように、どんなことやっていこうか考えます。サーベイの結果を見ながら定量的に把握して、やりたいことを1〜3つ決めて取り組んで、3カ月後に結果を見てみる。それをメンバーみんながオーナーシップを持って主体的に取り組むのが重要です。

ただ、何やっていいのかわからない、といったこともあるので、こうしたアクションメニューを作ることによって、メニューの中から自分たちがいいと思うものを選ぶ形で支援しています。 マネージャーの役割も重要です。メルカリはフラットでオープンなカルチャーを持っているので、先ほど言ったようなヒエラルキーや情報格差でマネジメントすることは基本的にありません。マネージャーに求められる役割は、チームの成果を最大化することです。

そのためには、チームメンバーみんなが生き生き働けることを後押しする必要があります。 色々なことをやらないといけないため、スライドに書いてあるトレーニングを実施し、マネージャーがチームのコンディションを整えて、チームのアウトプットを最大化するサポートをしています。

社員一人一人が働き方を選べる

木下:もう1つエンゲージメントにおいて大事なポイントは、働きがいと合わせた働きやすさの実現です。働きやすさの実現には、先ほど言ったように一人ひとり働き方が違う、もしくはライフスタイルが違うという点をできるだけ尊重する必要があります。そうしたダイバーシティ・インクルージョンの考え方で、メルカリは去年9月に「YOUR CHOICE」というポリシーを発表しています。これは、働く場所を社員個人が選べる仕組みです。

経営陣や人事で何度も議論したのですが、会社が求めるものは、一人ひとりの高いパフォーマンスとバリューで、これがチーム単位でも発揮していることです。これが担保できていれば、時間と場所はこだわりません。「YOUR CHOICE」は働く場所が自由で、同時にフルフレックスも導入しているため、時間も自由に決められます。

これは、対面の大事さを軽視しているわけではありません。月15万を上限として交通費実費で支給しますとスライドに書いてありますが、月1回なのか、四半期に1回なのか、週1回なのか、これに関しては「チーム単位で決めてください」と言っていて、会社で一律のルールは作っていません。

対面で会うときはその時間を大事にして、しっかりとチームビルディングをしたり、ブレーンストーミングをしたり、振り返りをしたりと。普段のオンラインミーティングではできないような深い話や、新しくワクワクするような議論をやりましょう、という点も大事にしています。これは、対面の良い点と、社員それぞれが自分のベストな所で働く点の良いとこ取りをしようという考えに基づいています。

リモートワーク・フルフレックス導入後の状況

直近でYOUR CHOICEに関するサーベイを実施しました。メルカリはこうしたサーベイを頻繁にやっています。非常に嬉しかったのは、個人・チームのパフォーマンスとバリューの向上が、このYOUR CHOICEによって後押しできていることが確認できた点です。 働き方は基本的に「ご自身で決めてください」と言っています。月1〜4回ぐらい会社に行っている人が9割で、フルリモートで四半期に1回ぐらいの出社、という人もいます。ここはすごく自由度を担保しています。

時間に関しては、それまではコアタイムありきのフレックス制度でした。会社に来る前提だったので、コアタイムにはみんなでランチへ行ったり、会議をしたりしていました。 フルフレックスになって、どうかな?と見てみたら、みんなフルフレックスを有効活用しています。中抜けするケースが一番多いのですが、なかには「週休3日でやっています」とか「平日と週末を入れ替えました」という人も。

時間を選んで働けていることで、一人ひとりの多様なライフスタイル・ニーズを満たせていると思います。 会社としては、パフォーマンスとバリューがしっかり高いレベルで、それも個人だけじゃなく、チームで高いレベルを実現している状態が担保できていればいいので、その実現と個人のライフスタイル・ニーズの実現の両方が高いレベルで満たされたらいいと思っています。 以上です。簡単にですが、エンゲージメントの高い組織を作るという点に関して、メルカリが取り組んでいる内容をお話ししました。

飯田:木下さんありがとうございました。

なぜエンゲージメントが高くないといけないのか?

飯田:いくつか私のほうで質問いたします。まず、視聴者の方からのご質問です。 「エンゲージメント、たしかに聞いたことがあるし、何となくイメージも湧く単語ですが、エンゲージメントとはそもそも何なのか。また、おそらくエンゲージメントの向上が最終目的ではないと思うのですが、なぜエンゲージメントの高さが大事なのでしょうか?」というご質問です。木下さんいかがでしょうか?

木下:そうですね。よく社員満足みたいな言い方もしますけど、「社員が満足して事業が成長しなくてもいいのか」みたいなのは本末転倒だと思います。 メルカリでどのように整理しているかというと、まずメルカリの組織はミッションとバリューが軸として確立されています。ミッションを実現するために集まった組織で、そのミッションの実現のためには、3つのバリューを高いレベルで発揮することが重要と考えています。

高いレベルでバリューが実現・発現されるためには、やはりエンゲージメントが高い状態であるべきだと。エンゲージメントの高い状況をメルカリの中では、「バリューが高く発現されている状況」と整理していて、バリューが高いチームを実現するためにエンゲージメントを高くします。それが結果的にはミッションの実現に繋がる、というふうに整理しています。

飯田:なるほど、ありがとうございます。非常に本質的な話だなと思いました。まずエンゲージメントが高いということを考えた時に、単に社員満足度が高ければいいわけではなく、「バリューをきちんと発揮できる状態」と定義されている点と、バリューを発揮するとミッションが実現して、業績の向上にも必然的に繋がっていくということですね。 そのあたりの一本串が通っているのが、さすがというか素敵だなと思いながらお話を伺っていました。

eNPSを高い状態に持っていくカギは?

飯田:eNPSも拝見しましたが、かなり高いレベルで推移していました。eNPSが高い、エンゲージメントが高いということに対して無数の施策をやっていると思うのですが、eNPSを高い状態に持っていくポイントはどういった部分にあると思いますか?

木下:まず、入り口として採用が重要です。ミッション・バリューに共感している人や、入社する前からバリューを体現していた人であれば、会社にフィットできます。ミッションとバリューという点でふさわしい人を採用できているかどうかが、大きなポイントです。

飯田:採用が大事という点について、異論がある方はおそらくいませんよね。とはいえ、ミッションやバリューに共感しているか、体現できているかという判断は難しそうです。採用の際はどのように見極めているのですか?

木下:面接官研修をやっているのですが、そのなかにバリューベースの質問も含まれています。面接官の記入するフォーマットにも、バリューの項目が入っているんです。この人材がどのくらいGo Boldな挑戦をしてきたかということは、必ず経験として聞いています。

飯田:基本的には過去の経験をベースに、バリューに紐づくエピソードを深掘りする感じでしょうか?

木下:そこが大前提ですね。そのうえで、思考が合っているかという点も重要です。先ほどお話したCulture Docは、実は去年社外公開しています。メルカリの採用サイトから中身が確認できます。社外公開に踏み切ったのは、メルカリがどういう考え方をする会社なのかを入社前に知ってもらい、価値観が合うと思う方にジョインいただきたいからです。それがすごく重要だと思います。

コロナ前と今でどのようにオンボーディングの仕方が変わったか?

飯田:採用が大事ということ、そして本編の中でも話題にあったオンボーディングですよね。コロナ前は、入社後のエンゲージメントが高い状態からスタートしていたのが、コロナ禍になり、ハネムーン期間が無くなってしまったという話を伺いました。 リモート勤務になり、チーム作りに苦労している方も視聴されていると思うんですけれども、関連して2点質問させてください。

1つは、コロナ前と今の働き方でどのようにオンボーディングの仕方が変わったのか、という点。

もう1つは、「そもそもハネムーン期間が無いほうがいいんじゃないですか?」という面白い質問を頂いています。つまり、いきなり期待値が上がりすぎるとコントロールできないので、一定のエンゲージメントを保ちながら活躍してもらうほうがいいのでは?という趣旨の質問だと思います。ハネムーン期間にエンゲージメントが高いことの重要性はどういう部分にあるのか、この2点をお伺いしたいと思います。

木下:まず、どんな工夫をしてきたか?という話ですが、オンボーディング、特に入社したあとのフィットの確認という点でいうと、入社する前に期待値をしっかり設定しているかがポイントです。 Culture Docの共有も大事ですけど、メルカリはまだ設立して9年の会社で、社内は色々整備できていないことが多いと。なのでよく言っているのは、「カオスを楽しめますか?」という話だったり、あとは「課題解決遊園地」みたいな言い方をします。

課題が多いことを楽しめる姿勢であればフィットするけれど、「こんなに課題が多いんだ」「勘弁してください」と、ある程度整備された組織のほうがパフォーマンスを発揮しやすい場合は、別の会社という選択肢のほうがいいのかもしれませんよね。 そういった期待値の調整が、まず大事だと思います。

Culture Docの中に、オンボーディングというパートがあります。「3カ月後にその人の持っているポテンシャルがしっかりと発揮できる状態を作りましょう」という形で、ある程度期間を設定しています。人によって1カ月でそこに到達する人もいるかもしれないし、2カ月かもしれませんけど、3カ月以内にはそこに到達するようにしたいと。 それを実行する主体が誰かというと、それは新入社員ご本人なんですね。メルカリはGo Boldというバリューであったり、一人ひとりがプロとして採用されている側面があるので、基本的に受け身は駄目ですよと。自分は新しく来たばっかりなので、という待ちの姿勢はNG です。 3カ月後に自分がフルポテンシャルを発揮するためには、どんな情報を入手したらいいんだっけ?とか、どんな人に会ったらいいんだっけ?みたいなのを、自分でしっかり考えて主体的に動くことを求めています。その上で、当然自分だけだとわからないことだらけなので、ナビゲーターが必要です。

人的な側面とツール的な側面によるナビゲーター

ナビゲーターには、人的な側面とツール的な側面があります。人的な側面というと、まずマネージャーとメンターは、必ず新入社員にアサインされます。その2人から細かいアドバイスやナビゲーションをしてもらいます。

たとえばメンターには「メンターランチ」というものを設定してもらっているのですが、大体入って1カ月ぐらいはメンターランチ浸けみたいな(笑)。新入社員と仕事上接点がある人と交流の機会を設ける、という狙いがあります。

もう一方がツールです。オンボーディングチェックリストの整備に力を入れてきました。何かというと、入社前から入社3カ月後までに新入社員がやることを、タスクリストにしてすべて網羅するんです。部署内にあるタスクは全部カバーできないので、会社の中でやる標準的なものを対象としています。マネージャーにやってもらうこと、メンターにやってもらうこと、もしくは新入社員自身にやってもらうことみたいな感じで、オーナーがしっかりアサインされているんです。

また、わからない時に「これはHRの中でも給与担当の人ですよ」「これは社内ITの方ですよ」など、どこに聞けばいいのかが明確になっています。 これを「ゲーム感覚でコンプリートしてください、3カ月以内に」と(笑)。主体として取り組むのは、新入社員です。マネージャーが何かを設定し忘れているかもしれないけど、それは自分でリマインドしてください、と伝えています。 リストや新入社員向けのポータルも作っています。新入社員がチェックすべき動画とか、スライドや資料を全部そこに掲載しているので、そこへアクセスすればある程度必要な情報が入手できる状況です。そうしたツールでサポートすることも併せて大事だと思っています。

飯田:なるほど、ありがとうございます。

ハネムーン期間が発生するメカニズム

飯田:新入社員に活躍してもらうことも大事ですが、一方でその人たちが気持ちよくプレイできるフィールドを整えることも、会社の責任だと思います。一人ひとりに期待することや頑張ってもらうこと、会社として整備することが適度なバランスでミックスされていることが伝わってきました。 先ほどキーワードの中で「新入社員が情報の海に溺れてしまわないように」とあったように、まさにお話のあった部分を整備しながら、うまくガイドしているのだと感じました。

木下:そうですね、さっきのローコンテクスト化や仕組み化という点ですね。 先ほどのハネムーンの話をしますね。ハネムーンはもともとコロナ前からそういった期間がありました。自分自身もメルカリに入社した1人として「ハネムーンがあったな」と思っています。

これがどういう現象で起きるかというと、まず入社前、当然新しい会社に入るのでドキドキじゃないですか。「どうなのかな」「実際に面接とかで聞いた話が、どのぐらい社内で実際に行われてるんだろうか」といったことは、やっぱり多くの方が不安に思いながら来るわけですよね。

ハネムーン期間がなぜ起きるかというと、たとえば「バリューが浸透してますよ」という話が想像以上だったケース。ある程度浸透していると思ったけど、ここまでなのか!みたいに、ある意味で期待を上回った時にハネムーンになるのだと思います。

たとえば情報共有度やルールがないという話でも、「そうは言っても、情報が取りにくいところもあるんじゃないですか?」と思ったり。前に自分がいた会社よりは良いのかもしれないけど、そうは言ってもそこまでじゃないよなっていうふうに、みんなの中である程度想像しているレベル感があるんです。

そして、入社してみると結構そのレベルを上回る。 あとは、やっぱり一緒に働く仲間達ですよね。そこも最初不安だと思うのですが、メルカリに入ったら、みんなAll for Oneでサポートしてくれるので、そこが「いい仲間に恵まれて本当にいい転職したな」というふうに実感してもらいやすい。それが、ある意味ポジティブな体験を作れていて、プラスなのかなと。

あとはもちろん心理的に、最初の2〜3カ月は新しいことを始めるワクワク感やエキサイト感がありますよね。どんなことを新しく始めたとしても最初はドキドキ感があって、だんだん慣れてくると普通になっていくのは、一般的な心理的動向かなと思います。

飯田:御社の場合、入社予定者の期待値も高いところからスタートすると思うんですけど、それをさらに上回るのは素晴らしいですね。

バリューを体現してもらうための施策

飯田:お話の中で、たびたびバリューというキーワードが出てきます。エンゲージメントが高い状態というのは、バリューを一人ひとりが体現できている状態、というお話でした。 入社後に、バリューを一人ひとりに感じてもらう、あるいは体現してもらうために取り組んでいる施策はありますか?

木下:実は、バリューはすべての人事プロセスにインストールされています。社員からすると、バリューを日々感じるような仕組みになってます。 わかりやすい話でいうと、評価報酬の仕組みがあります。半年ごとに評価サイクルを回しているのですが、パフォーマンスとバリューで分けて評価しているんです。パフォーマンスはOKRを立てて、それに対してどのぐらい成果を出せたかって話ですけど、バリューのほうは、3つのバリューに対してどれだけ発揮できたかということを、一人ひとりがまず自分自身のセルフアセスメントをして、それに対してマネージャーがコメントする感じです。

ほかには「ピアレビュー」をやっています。これは、一緒に仕事をする仲間たちから「グッド」や「もっと」などと、定性的にコメントしてもらっています。これもバリューに基づいたインプットをお互いにするよう奨励しているんです。「自分が困っている時に助けてくれてありがとうございます」などと。 一方で「ここはもっとGo Boldで良かったんじゃないですか?」「まだちょっと遠慮されてるところがありますよ」みたいなコメントを書いてもらう。そうした多面的な評価・フィードバックの仕組みが、バリュー強化に繋がっています。

飯田:なるほど。ちなみに周囲の方からのフィードバックは、具体的にどのレイヤーの方が対象になるんですか?

木下:全社員です。

飯田:では、同僚からも上司からも部下からも、という感じなんですね。役職が上がっていったとしても、そうした評価を受けているわけですね。

木下:そうですね。あとは日々のコミュニケーションでいうと、Slackのスタンプもあれば、メルカリ独自の「メルチップ」というのがあります。今日もUniposの話がこのイベントであったと思いますが、メルチップというポイントをお互いに送る時に、「この行動がすごいGo Boldだと思いました」とか「今日の発表がすごいBe a Proでした」みたいに、ある程度バリューを意識しながらメルチップを送り合っています。これもすごく有効だなと思いますね。

飯田:なるほど。皆さんバリューに共感して入社してくると思うのですが、入社後さらにバリューを高め合ったり、体現のレベルを高め合ったりする仕組みを、幾重にも仕掛けているということなんですね。

木下:自分たちとバリューの繋がりが大事ですよね。たとえば、法務部門におけるGo Boldって何でしょう?みたいな。それは人事や経営の人が教えることじゃなく、法務部の人が自ら考えるのが大切です。法務部のケースだと、「自分達はコンプライアンスをしっかりしたいから、そこにおいて一線を外すことは絶対しません」というのは、Be a Proプロです。

ただ一方で、たとえばデジタル化でいうと、契約書をすべてオンライン化します、みたいなことにいち早く取り組みました。これはやっぱりGo Boldなアクションになるんですよね。 どんな部署や業務であっても、どのような要素だったらGo Boldなのか、All for Oneなのかといった点をしっかり言語化していくのが大事かなと思います。

飯田:なるほど、ありがとうございます。

マネージャーに求めること

飯田:ポイントになってくるのは、上長の方が、新しく入った方に対してどのようなコーチングやエデュケーションをやるのか、ということだと思っています。

御社の場合、上長の方のマネジメント上の行動において「こういうことをしてください」とか、逆に「こういうことはしてはいけません」といったような指針があるんじゃないかなと思っています。 マネージャーの方がやるべきことと、逆にやるべきではないことってそれぞれどういうことでしょうか?

木下:メルカリのマネージャーに求めるものを一言でいうと、自身のチームのアウトプットを最大化することです。チームのアウトプットを最大化するためには、やはりチームメンバーのバリューが最大化されていることが、メルカリにとって必要なアウトプットが高まる大事な要件だと考えています。

なので、このバリューの後押し、実現の後押しをマネージャーにお願いしています。 全員に受けてもらっている研修として、心理的安全性の高いチームを作る研修があります。先ほどの「Go Bold」、大胆にやるからには失敗することもありますよね。失敗を恐れたらGo Boldできないんです。でも、失敗を恐れないためには心理的安全性の高いチームを作る必要があります。「この程度にしとこうかな」とコンサバティブにメンバーが考えているところを、「もっとやってみてもいいんじゃない?だってメルカリってGo Boldを大事にする会社だよ」というふうに、いかに後押しするかが大事なんです。 研修の中でも言っているのは、仲良しグループを作るわけじゃないということです。

先ほどフィードバックカルチャーという話がありましたが、ミッションやバリューの実現が大事なので、そのために今できていないことを率直にフィードバックすべきなんです。 そういった建設的なフィードバックをお互いにすることによって、議論がより深まったり、新しいアイデアが出てきたりします。それが成功に結びつくことを大事にしているので、オールフォーワンじゃないようなことがあったり、まだまだGo Boldじゃないと思うところがあれば、率直に言い合うことが大事です。

飯田:なるほど、ありがとうございます。

バリューから外れている人に対して、誰がどのように指摘するのか?

飯田:ちなみに、会社によって言葉の解釈や定義は違ってくると思うんです。たとえばプロフェッショナルであることを考えた時に、自分にも他人にも厳しく、できることは徹底的にやろうとか、一方で勢いハードワークになってしまったりとか。細かい指摘が横行して、一人ひとりの心理的安全性が阻害されてしまうような環境が、世の中にはかなりあると思います。

御社においても、バリューの解釈や体現の仕方が、少し会社の意図する方向とは違う形で出てしまうプレイヤーやマネージャーがいる時もあるかもしれません。半年間のスパンでの評価とか、あるいは360度レビューにおいて指摘することも大事だと思うのですが、よりタイムリーに、バリューから外れている人に対してしっかり指摘することも重要と思っています。そうした指摘は、誰がどのようにやっていくのでしょうか?

木下:そこはやっぱり1on1が有効に使われていると思っています。基本的にはマネージャーとメンバーが定期的に、大体ウィークリーで1on1をしているケースが多いです。メルカリの1on1は、斜め1on1も結構多いんです、もしくはスキップレベル。

たとえばマネージャーと1on1するだけでなく、マネージャーのマネージャーとか、私とか。人事のメンバーや私が1on1したりと、自由にやっていいよというカルチャーです。 特定のメンバーに私が直接フィードバックしたいと思うことがあれば、私が1on1を設定することもあったり、逆に「tatsuoさん(木下氏)に対してフィードバックしたい」という人がいたら1on1してもらえたりするので、そこはありがたいなと思いますね。

飯田:ちょっと細かい点ですけど、社内では「tatsuoさん」と呼ばれているのですか?

木下:はい、そうです(笑)。

飯田:社内では下の名前やニックネームで呼び合う感じですか?

木下:入社するとき結構難易度があるんですけど、Slack名なんですよ。Slack名ってけっこうあだ名も多くて(笑)。最初は本名とSlack名が結びつきませんでした。でも普段の会議だとSlack名で呼び合うんですよ。 例えば、アクションのネクストステップで「これはいちごばななさんが来週までに終了すること」。と書いてあると、いちごばななさんって誰だっけ?となったり。最初はとまどいましたが、それを含めてカジュアルなんです。フラットでオープンで役職関係なく接しやすい、というのを大事にしています。 飯田:なるほど、ありがとうございます。

ミッションを浸透させるために取り組んでいる施策は?

飯田:そういう日々のカルチャーであるとか、バリューを体現していくためにどうすればいいのかということは、非常に重要なポイントだと思います。 バリューの奥にはミッションがありますよね。もちろんバリューをやっていけば、自然とミッションが達成できる設定ではあると思うんですけど。とはいえ、ミッションのことをしっかり意識する、直接的な眼差しも大事だと思います。 ミッションを浸透させたり、実現するために組織の中で取り組んでいる施策はありますか?

木下:ミッションは全社的なミッションがあるんですけど、そこは落とし込みをしています。たとえば事業別・カンパニー単位におけるミッションは何かというのをみんなで考えて決めたり、自分が所属する部署やチームにおいてのミッションってなんだろうと考えたり。そして、そのミッションが全体のミッションとどう繋がっているか?ということを結構やっています。 これをやることによって、全体と自分との繋がりが明確になるんです。

また、チームミッションのほうが日々自分がやっていることに直結しているので、何を目指してやるのかというWhyの部分、そこをみんなで考えていくことが、チームの一体化にも繋がっていると思いますね。 もう1個やっているのが、ロードマップです。これは3〜5年とかでやっているんですけど、自分達はどこを目指すかということを、3年から5年の未来から考えて、逆算でやりたいことの解像度を上げていく取り組みです。事業単位でもやっているんですけど、部門・チーム・プロジェクトで見た時に、「短期的にこれを解決したい」というだけじゃなくて、「3年後5年後にこうなっていたいから、これをやろうよ」というふうにしっかり逆算で考える。ミッションの解像度をより高めたものがロードマップだと思っています。

ロードマップの見直しはどのように進めているのか?

飯田:御社の場合は、文字通りGo Boldにロードマップを引かれるんじゃないかなと思うのですが、時には見直しもありますよね。特に思っていたとおりにいかなかった場合の見直しは、社内にネガティブなインパクトを与えかねないと思います。そういうコミュニケーションは、誰がどう意思決定していくのですか?

木下:経営レベル・各事業部・部門単位といったように、細かくコミュニケーションしています。大きく作り直すのは1年に1回なんですが、四半期単位でも振り返りをしているんです。四半期単位で振り返る際、やっぱりこれは落としたとか、もしくは遅らせたとかっていうのは、どうしても色々な事情で発生します。

ただ大事なのは、OKRの考え方でもあるんですけど「ワクワクするような目標を設定しよう」ということ。ロードマップもそうですけど。もしもワクワクするような目標を設定しているなら、100%達成っておかしいですよね。 OKRも進捗をトラックしていて、我々は進捗がうまくいっている場合は「グリーン」とか信号で言うんですよ。グリーン、イエロー、レッドといったように。もし全部オールグリーンだったら、そもそもOKRが低すぎたんじゃないの?となってしまいます。適切な目標設定になっていなかった、コンサバティブに作ってしまった可能性などがあり、逆にこれは悪い例かもしれません。 思い切ってみんなが「ちょっとここは無理だよな」というぐらいの目標を設定すると、ワクワク感とか「思い切って頑張ろうぜ」という気持ちが出てくるので、そこは守りに入らないように徹底しています。

飯田:未達でも駄目ですけど、簡単すぎても駄目ってことですね。

木下:未達も場合によっては全然ありです。というのは、もともとが高いゴールを設定しているので。達成度だけで評価はしていません。成果の絶対量とかパフォーマンスの総量みたいなもので評価していますね。

飯田:なるほど、ありがとうございます。 早いもので、まもなくお時間です。本日はメルカリ CHROの木下達夫さんにお越しいただきました。どうもありがとうございました。

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