近年注目が集まっている「ウェルビーイング(well-being)」をご存じでしょうか。
ウェルビーイングは、「すべてが満たされた状態」や「心身と社会的な幸福」などと訳されますが、正確な意味や定義についてはあまり認知されていません。
そこで本記事では、ウェルビーイングとは何か、意味やメリット、ビジネスシーンで注目度が高まっている背景を解説していきます。ウェルビーイングに取り組む企業の事例についても触れているので、ぜひ参考にしてみてください。
ウェルビーイングの意味とは?
ウェルビーイング(well-being)とは、「肉体的・精神的・社会的に満たされた良好な状態」を意味する言葉です。直訳すると「健康」や「幸福」ですが、国や機関によって定義や意味はさまざまです。
例えば、世界保健機関(WHO)憲章前文の一節では、ウェルビーイングを次のように定義しています。
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。
引用元:日本WHO協会|世界保健機関(WHO)憲章とは(世界保健機関憲章前文(日本WHO協会仮訳)
また、厚生労働省は次のように定義しています。
「ウェル・ビーイング」とは個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念
引用元:厚生労働省|雇用政策研究会報告書 概要(案)(p.1)
共通していることは、ウェルビーイングは「病気にならない、ケガをしない」という狭義の健康を意味する言葉ではない、ということです。つまり、「幸せを実感し、仕事や人間関係が良好な状態である」という広義の健康を意味する言葉といえます。
ウェルビーイングがビジネスで注目される背景とは?
ビジネスシーンでウェルビーイングが注目される背景として、次の4つの要因が挙げられます。
- SDGs
- ダイバーシティ
- ワークライフバランス
- 労働人口不足と人材確保
それぞれ詳しく解説していきます。
背景1.SDGs
SDGs(エスディージーズ)は、「持続可能な開発目標」を意味する言葉です。2001年に策定されたミレニアム開発目標の後継にあたるもので、2030年までに持続可能でより良い世界を目指すための国際目標です。
SDGsが目標(ゴール)として掲げる全17項目のうち、3つ目に「GOOD HEALTH AND WELL-BEING(すべての人に健康と福祉を)」があります。
国際目標に掲げられていることからも、社会全体でウェルビーイングが求められていることが理解できます。
背景2.ダイバーシティ
ダイバーシティの直訳は「多様性」で、一般的には「性別や人種、価値観などにとらわれず、多様な人材が集まった状態」を意味しています。
現代のビジネスシーンでは、多様な価値観やバックグラウンドを持つ人とコミュニケーションをとる機会が増え、同時に、働き方やライフスタイルが多様化しています。外国人労働者の受け入れやテレワークの浸透などがわかりやすい例です。
企業が従業員の多様性を尊重し、能力を最大限発揮できる環境を整備すること(ダイバーシティ経営の推進)は、従業員の幸福度や生産性の向上に直結します。そのため、ダイバーシティはウェルビーイングの実現に欠かせない要素として注目されています。
背景3.ワークライフバランス
働き方改革推進を受け、仕事と生活を両立させるワークライフバランスは、企業の重要な経営課題のひとつとなりました。
ワークライフバランスの実現には、さまざまなメリットがあります。具体的な例は以下のとおりです。
- 業務の拘束時間が減り、自分や家族の時間が増える
- 心のゆとりが生まれる
- やりがいやチャレンジ精神が生まれる
- メンタルの健全化
ワークライフバランスに対する取り組みを見直し、仕事だけではなく、生活の充実や幸福(ウェルビーイング)を推進する企業が増えています。
背景4.労働人口不足と人材確保
日本では少子高齢化が進み、今後も深刻な労働人口不足になると予測されています。また、近年は終身雇用の崩壊や転職の一般化が進み、企業は優秀な人材の確保という課題にも直面しています。
企業は、これまで給与や待遇改善で人材の定着を図ってきました。ところが、人材の流動化が激しい現代では、優秀な人材を確保するために、従業員や家族の幸福を追求する姿勢も求められるようになりました。
採用難の時代だからこそ、従業員の帰属意識やロイヤリティを高め、人材を定着させる必要があります。言い換えると、ウェルビーイングを重視した労働環境づくりが重要な時代となっているということです。
ウェルビーイングを構成する5つの要素
ポジティブ心理学の「PERMAの法則」とギャラップ社が導き出した「5つの要素」は、どちらもウェルビーイング測定の指標として有名です。
ただし、どちらも異なる要素を指標として用いています。ウェルビーイングに対する理解を深めるためにも、それぞれが提唱する5つの要素をチェックしていきましょう。
ポジティブ心理学「PERMAの法則」
ポジティブ心理学の第一人者であるセリングマン博士は、個人の「持続的な幸福」の重要性を説き、ウェルビーイング理論を提唱しました。
そして、「持続的な幸福」を構成する次の5つの要素の頭文字を取り、「PERMAの法則」と名付けました。
- P(Positive Emotion):嬉しい、楽しい、面白い、感動する、希望を持つ
- E(Engagement):没頭する、夢中になる、積極的に取り組む
- R(Relationship):人を助ける、人を援助する、人から援助される
- M(Meaning):人生の意義、生きていく意味、何か大きなものとの関わり
- A(Accomplishment):達成感、やり遂げる、何かを達成する
各要素が向上することで、幸福度や充実感が増し、ウェルビーイングな状態になるとされています。
ギャラップ社の5つの要素
世界最大規模の世論調査会社であるギャラップ社は、ウェルビーイングを構成する要素として次の5つを挙げています。
- Career well-being:仕事、育児、家事、勉強など自分で選択したキャリアの幸せ
- Social well-being:人間関係でどれだけ愛情や信頼、幸福をもたらす関係性を築けるか
- Financial well-being:経済的に満足できているか、資産管理ができているか
- Physical well-being:心身ともに健康であるか、行動できるエネルギーはあるか
- Community well-being:地域社会とつながっているか、会社や取引先との関係は良好か
ウェルビーイングに関するギャラップ社の世論調査は、160以上もの国や地域が調査対象となっています。その詳細に渡る調査データは、国連の「世界幸福度ランキング」に利用されるほどです。
ウェルビーイングを語るうえで、ギャラップ社の世論調査は欠かせないポイントといえるでしょう。
企業がウェルビーイングに取り組むメリット
企業がウェルビーイングに取り組むことで、次のメリットが得られます。
- 健康経営の増進
- 生産性と創造性の向上
- 離職者の減少と人材の確保
- 従業員の満足度と業績アップ
ひとつずつ見ていきましょう。
メリット1.健康経営の増進
従業員の健康管理を経営的視点でとらえ、戦略的に実践することを「健康経営」といいます。
従業員の健康な状態を目指すウェルビーイングな経営は、「健康経営」の増進に直結し、結果として企業や組織全体の活力向上に大きく貢献します。
メリット2.生産性と創造性の向上
ウェルビーイングを意識した環境で働く従業員は、心身が安定し、やりがいや意欲をもって仕事に取り組めるようになります。
従業員それぞれの能力が十分に発揮されるようになれば、個の総和として組織全体の生産性や創造性の向上効果が期待できるでしょう。
メリット3.離職者の減少と人材の確保
ウェルビーイングが定着した労働環境では、従業員が精神的・肉体的に健康な状態で長く働けます。そのため、離職者の減少(離職率の低下)が期待できるでしょう。
また、「ウェルビーイングに積極的に取り組む企業」というポジティブなイメージは、企業のブランド力を向上させるため、優秀な人材の確保や定着につながります。
メリット4.従業員の満足度と業績アップ
ウェルビーイングの推進は、従業員の労働環境に対する満足度を向上させます。また、満足度が上がれば、仕事の生産性が高くなり、結果として会社の業績がアップします。
一方で、気持ちの落ち込みを放置した場合、「生産性が35%低下する可能性がある」と指摘する研究結果も存在します。
精神的な問題によって仕事の生産性を低下させないためにも、ウェルビーイングの取り組みは重要です。
ウェルビーイングに取り組む企業事例4選
ここでは、ウェルビーイングに積極的に取り組んでいる企業を4社紹介します。
- 味の素
- ユニリーバ
- アシックス
- PwC Japanグループ
それぞれ詳しくみていきましょう。
事例1.味の素
食品メーカーである味の素は、『味の素グループ健康宣言』を掲げ、従業員が心身の健康維持・増進ができる職場環境づくりに注力しています。
味の素の特徴は、従業員のセルフケアを促進する取り組みです。例えば、従業員一人ひとりに合った健康支援を提供する「全員面談」、AIによる栄養管理アプリ「カロママプラス」、可視化された健康情報を閲覧・活用できるポータルサイト「MyHealth」などです。
上記の取り組みが高く評価され、味の素は「健康経営銘柄2021」や「健康経営優良法人2021(ホワイト500)」に認定されています。
事例2.ユニリーバ
一般消費財メーカーであるユニリーバでは、自分も含めたすべての人が「幸せに働く」ことを目指し、ウェルビーイングを推進しています。
例えば、ワーケーション制度である「WAA(ワー)」が有名です。「WAA」は、働く場所と時間の制限をなくす目的で設けられた制度で、多くの従業員が生産性の向上や生活改善を実感しています。
事例3.アシックス
スポーツメーカーのアシックスは、『ASICS健康経営宣言』を策定し、従業員とその家族の健康的な生活の実現を目指して健康経営に取り組んでいます。
具体的には、本社にあるスペースで仕事後にスポーツを楽しめたり、全社員に対して「メンタルヘルス研修」を実施したりするなど、運動に重点を置いた取り組みが多く見受けられます。
事例4.PwC Japanグループ
世界4大会計事務所のひとつであるPwCのJapanグループでは、「Be well, work well」を合言葉に、従業員が心身ともに健康で、高いモチベーションを保ちながら仕事に取り組める環境づくりを目指しています。
PwCは、ウェルビーイングをPhysical(身体)、Mental(精神)、Emotional(感情)、Spiritual(生き方・働き方)の4領域に分けました。そして、従業員や家族が各領域で充実した仕事やプライベートを送れるよう、多様な施策を展開しています。
取り組みの例は、法定健診以外の補助、予防接種の補助、ストレスチェック(年1回)、相談窓口の設置(産業医や看護師が常駐)、職場復帰支援プログラムなどです。
ウェルビーイングを推進し生き生きと働ける職場づくりを
ウェルビーイングを意識した取り組みは、従業員の幸福度を高めるだけでなく、仕事のパフォーマンスや満足度を向上させ、企業の成長や利益につながるものです。
ウェルビーイングが定着した労働環境では、離職率の低下や優秀な人材の獲得などのメリットが期待できるため、変化の激しい現代のビジネスシーンにおいて重要な概念といえます。
ウェルビーイングを自社で推進し、社員一人ひとりが生き生きと働ける職場づくりを試みていきましょう。
参考:
日本WHO協会|世界保健機関(WHO)憲章とは
経済産業省|健康経営優良法人2021(大規模法人部門(ホワイト500))認定法人一覧(No.89)


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