エンゲージメントとは「関係者同士の強い結びつき」を意味します。
本記事では、エンゲージメントの意味や経営上のメリットなどを解説していきます。
エンゲージメントの意味や定義を解説
エンゲージメントとは、「関係者同士の強い結びつき」を意味する用語です。
そのほかにも、エンゲージメントには婚約、契約、約束、誓約などの意味もあり、TPOに応じて様々な解釈が成り立ちます。ビジネスにおいては「従業員が仕事を通じて成長し、同時に、組織・会社との関係性や信頼を強くし、貢献すること」を意味します。
エンゲージメントを学問の世界で最初に概念化されたのは、1990年、ボストン大学心理学教授のウィリアム・カーンです1。
カーンは、論文の中で「Personal Engagement(パーソナル・エンゲイジメント)」という言葉を用い、「エンゲージメントの高い社員は業績が良い、なぜなら、自身と仕事を同一化し多大な労力を注ぐから」と述べています。
その後も研究が進み、2002年にはアメリカの心理学者フランク・L・シュミット博士が「ワークエンゲージメント」という概念を提唱し2、さらに広く認知されるようになりました。
【引用】1,2
学問の世界でエンゲイジメントを最初に概念化したのは、Kahn(1990)である。Kahnは、「パーソナル・エンゲイジメント」という名称を用いて(中略)概念が確立された。
厚生労働省| 労働経済の分析―人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について(2019)―(p.172,173)
ワーク・エンゲージメントと従業員エンゲージメント
「ワーク・エンゲージメント」「従業員エンゲージメント」それぞれについて解説します。
本記事では、いずれも含んだ広義のエンゲージメントとして捉えます。
ワーク・エンゲージメント
ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授によって「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる。そのエンゲージメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である」3と定義されています。
従業員エンゲージメント
一般的に「組織に対するコミットメントや貢献意欲、すなわち愛社精神のようなもの」4と解釈されることが多く、ワーク・エンゲージメントとは異なる概念だとする意見もあります。
「従業員エンゲージメント」と「ワークエンゲージメント」の違いは、以下の記事で詳細を解説しています。
従業員満足度との違いは?
従業員満足度(Employee Satisfaction)は「従業員の労働待遇や賃金、設備など労働環境に対する評価を数値化した満足度」です。
主に、居心地の良さに焦点を当てており、給与や休暇制度などで満足度が高まるとされています。
あくまで満足度であり、自発的に貢献したいという意欲・態度でない点が、エンゲージメントと異なります。
ロイヤルティとの違いは?
ロイヤルティ(Loyalty)は「従業員の企業に対する忠実度や忠誠心」を意味します。
従業員やスタッフが組織や企業に対して抱く忠誠心のことで、「組織の一員として誇りを持っている」という好意的な感情です。エンゲージメントと似た概念ですが、結びつきの方向が異なります。
ロイヤルティは、従業員が企業に対して忠誠心を持つという上下関係の意味合いが強く、エンゲージメントは関係者同士の強いつながり=双方向の結びつきを意味します。
エンゲージメントが注目されるようになった背景は?
従来の日本企業の雇用環境が大きく変化したことで、エンゲージメントが注目されるようになりました。
背景1.深刻な人材不足が進んでいる
少子高齢化が進み、日本経済は労働者人材の不足が懸念されています。
また、若年層を中心に働くことに対する考え方も変わりました。FIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的自立と早期退職を組み合わせた造語)ブームや転職の一般化が進んだため、優秀な人材ほど流出する可能性が高くなりました。
背景2.モチベーションの維持が難しい
テレワークの普及など、働き方の多様化が進み、仕事や業務のバリエーションが増えました。顔を併せないことのすれ違いや、一人で仕事をする孤独感が増すと、従業員のモチベーションは低下傾向になります。
そのため、組織への愛着を育てることが一層必要なのです。
これら直面する2つの問題を背景に、企業と従業員のつながりを強くする「エンゲージメント」の必要性が生じているのです。
エンゲージメントを測定するには?
現在は、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(UWES)を用いて数値化されます。
エンゲージメントが高いほどエンゲージメントスコア(ES)が高くなります。
ここではワーク・エンゲージメントの測定方法をご紹介します。
形式
測定方法のうち、最も多く用いられるのがアンケート調査(エンゲージメントサーベイ)です。
アンケートの回答を集計することで「自社エンゲージメントがどのような状態にあるか」を数値化し、定量的に把握できます。
導入のメリットは、自社の課題を見える化できる点です。組織の課題や従業員の思い、経営陣と従業員の間にある考え方のギャップをあぶり出すことが可能です。
主な質問内容
下記の質問によって、3要素である活力・熱意・没頭を測定します。
ーーーーーーー【仕事に関する調査】ーーーーーーー
(活力)
①仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
②職場では、元気が出て精力的になるように感じる
③朝に目がさめると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる(熱意)
④仕事に熱心である
⑤仕事は、私に活力を与えてくれる
⑥自分の仕事に誇りを感じる(没頭)
⑦仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる
⑧私は仕事にのめり込んでいる
⑨仕事をしていると、つい夢中になってしまう(回答)
0点:全くない
1点:ほとんど感じない(1年に数回以下)
2点:めったに感じない(1ヶ月に1回以下)
3点:時々感じる(1ヶ月に数回)
4点:よく感じる(1週間に1回)
5点:とてもよく感じる(1週間に数回)
6点:いつも感じる(毎日)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スコアの計算方法
スコアは、活力・熱意・没頭の3要素の平均値で求めます。
質問に対して、0点(全くない)~6点(いつも感じる)まで7段階のうち該当するものを選び、総得点を項目数(上記の場合場合、9)で除した平均値がワーク・エンゲージメント・スコアです。
なお、スコアを求める際、質問項目数が17要素で構成される(UWES-17)場合は、合計点を17で除して平均値を求めます。
参考:厚生労働省| 労働経済の分析―人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について(2019)―(p.170~180)
エンゲージメントの経営上のメリットは?
エンゲージメント向上のメリットは4つあります。
1.利益率の向上
エンゲージメントの向上は、従業員の「企業や組織に貢献しよう」という強い意志を意味します。品質の高い製品・サービスが生まれ、長期的には売上や利益が増加するため、企業の競争力も大きく向上できるのです。
株式会社リンクアンドモチベーションの調査では、「エンゲージメントスコア(ES)1ポイントの上昇につき、当期の営業利益率が 0.35%上昇する」5ことが分かっています。
【引用】5
「ES1ポイントの上昇につき、当期の営業利益率が 0.35%上昇する」ことが分かりました。つまり、「エンゲージメント」は営業利益率にプラスの影響をもたらすということです。
株式会社リンクアンドモチベーション「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果を公開
2.生産性の向上
企業との絆が深まると、従業員は自身と仕事を同一化するため、献身的に業務に取り組むようになります。
また、組織・チームの一体感が強まり、企業全体の士気が高まり、取引先や顧客の満足度が向上する、といったポジティブな循環が発生します。
同調査では、「エンゲージメントスコア(ES)1ポイントの上昇につき、労働生産性(指数)が 0.035 上昇する」6ことが明らかになりました。
【引用】6
「ES1ポイントの上昇につき、労働生産性(指数)が 0.035 上昇する」ことが分かりました。つまり、「エンゲージメント」は労働生産性にプラスの影響をもたらすということです。
株式会社リンクアンドモチベーション「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果を公開
3.離職率の低下
株式会社リンクアンドモチベーションの調査結果によると、「エンゲージメントスコア(ES)が高いほど退職率が低い傾向にある」7ことがわかりました。これは現場社員だけではなく、管理監督を行うミドル層も同様の結果であり、エンゲージメント向上は人材流出のストップに大きく貢献します。
【引用】7
「ES1ポイントの上昇につき、労働生産性(指数)が 0.035 上昇する」ことが分かりました。つまり、「エンゲージメント」は労働生産性にプラスの影響をもたらすということです。
株式会社リンクアンドモチベーション「エンゲージメントと退職率の関係」に関する研究結果を公開
4.人材の育成や確保
離職率の低下は、優秀な人材が残ること、また、従業員一人ひとりの長期的成長につながります。人材が安定すると企業イメージも高くなり、外部から優秀な人材が流入しやすくなります。
以上のように、エンゲージメントの向上は個人と組織双方にポジティブな効果をもたらすため、新しい経営指標としてとても有効です。
エンゲージメントが向上する方法は?
エンゲージメントを向上させる方法を5つ紹介します。ポイントは「裁量権」と「自己効力感」です。
1.企業の理念やビジョンの共有
最も大切なのが会社の理念やビジョンの共有です。目指している方向性を伝えることで社員の姿勢が定まります。浸透に有効な方法は「見える化」です。壁に貼る、会議で音読するなど、定期的に理念やビジョンを発信し、目指すベきゴールをしっかり提示しましょう。
2.コミュニケーションの活性化
最小単位の部署やチームで、各メンバー参加型のミーティングを実施しましょう。
「どうすればもっと良い部署、職場になるか」を話し合うのです。
役職に関係なく意見を出し合い、実行することが大切です。「自分の意見が認められた」「職場を改善できた」という気持ちが強くなり、裁量権や企業への愛着心が強まります。
参考:労働生産性の向上に寄与する健康増進手法の開発に関する研究|職場環境へのポジティブアプローチ
3.ジョブ・クラフティング
ジョブ・クラフティングは「個人が仕事を主体的に捉え直し、やりがいを持てるように導く手法」です。「やらされている仕事」から「やりがいを持って取り組める仕事」に再定義しましょう。
三人の石工の話が有名です。
”何をしているかを聞かれて、それぞれが「暮らしを立てている」「石切りの最高の仕事をしている」「教会を建てている」と答えた。第三の男こそマネジメントの人間である。”
3人目の石工職人は、やりがいを持ち主体的に仕事をしています。
ジョブ・クラフティングの本質は、3人目の石工職人と同じ意識を持つことです。
仕事や業務に対する向き合い方を伝え、従業員の自己効力感が高くなる研修をしましょう。
4.心理的安全性の確保
お互いを尊重し、思いやれる組織風土をつくりましょう。「自分、そして、仲間が大切にされている」という意識がなければ、従業員は組織に貢献しません。
そのためには、従業員の配置は適切か、健全に働けているか、超過労働はないかなどに目を向け、働きやすい環境をつくることが大切です。心身の健康度と信頼関係を高めることで、従業員が失敗や非難を恐れずに自分らしく発言と行動ができる状態がつくれます。これはメンタルヘルス対策や健康経営にも有効です。
5.タレントマネジメントの活用
エンゲージメント向上には、タレントマネジメントも有効です。
タレントマネジメントとは、人材の能力やスキルを一元管理することにより、適材適所の人材配置や戦略的な人材育成が可能になるマネジメント手法です。一人ひとりのスキルに応じて業務やポジションを任せられ、個々の能力を最大限発揮できます。
その結果、従業員の組織に対する満足度や信頼度が高まり、エンゲージメント向上につながるのです。
まとめ
エンゲージメントの向上は、利益率や労働生産性アップ、離職防止や人材確保など経営に大きく貢献します。
エンゲージメント経営について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
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