講演レポート

「協調的ウェルビーイングと働き方ー幸福観の国際比較を通してー」

2022年9月28日・29日に株式会社リーディングマークによって開催された「ウェルビーイングリーダーズサミット」において、京都大学教授の内田由紀子氏が、「協調的ウェルビーイングと働き方ー幸福観の国際比較を通してー」と題して講演しました。講演要旨は次のとおりです。

ウェルビーイングを考える際の注意点

ウェルビーイングの中には、ユーダイモニアとヘドニアの2つの要素があると言われています。ユーダイモニアは「生きがい」や「人生の価値」を意味する言葉です。一方、ヘドニアは「快楽」を意味します。毎日ウキウキし、不快でない状態がヘドニアであるため、ヘドニアだけ追い求めると、苦労を避けてしまうことが危惧されます。

企業に対してウェルビーイングのお話をする際「社員が働くなるわがままを許すことになるのでしょうか?」といった質問をよく受けますが、そういうことではありません。私達はウェルビーイングの実現に向けて、人生の意味や価値、あるいは働くことの価値を理解していく必要があるのです。そのために努力や苦労ばかりすればいいのかというと、そうではありませんよね。

一人ひとりが活力を持って働くことも大事なのですが、必ずしも努力や苦労は否定するものではなく、あくまで良い場づくりのために、人々がどう自分を犠牲にすることなく働けるのか考えるのがウェルビーイングだと思います。

ウェルビーイングの意味は、国や地域によっても大きく異なります。「世界ランキングの中で何位なのか」といった点ではなく、自分たちのウェルビーイングとは何だろう?と考えることが大切です。自分たちの立ち位置はどういうところにあるのか、自分たちの会社が求めるウェルビーイングとは何かを理解し、共有していくことが重要といえます。

ウェルビーイングの求め方は、多様であるべきです。こういう生き方でないと人は幸せになれない、といった規範意識が日本では強かった。最近では、多様な生き方・多様な幸せの求め方も徐々に認められてきていますが、働き方についてはまだまだ多様性が低い現状も見受けられます。この「多様性」も、ウェルビーイングを考えるうえで1つのキーワードといえるでしょう。

獲得的幸福感と協調的幸福感

北米を中心とした研究では「いいことがたくさんあること」が幸せの定義とみなされてきました。若くて健康、よい教育を受けている、収入が良い、外交的であるといったような尺度です。統計的にみると間違ってはいないのですが、こうした幸福観はアメリカ社会の中で生き残るために、色々な物を勝ち得ていくことが必要とされてきたことが背景にあります。この幸福観のことを「獲得的幸福観」と呼びます。

一方で日本は、他者とのバランスを気にし、まわりまわって自分にも幸せがやってくるような「協調的幸福観」が強い社会といえます。

これまでは「獲得的幸福」が指標として使われてきました。たとえば人生の満足度としては、「自分の人生はとても素晴らしい」「私は望んだものを手に入れてきた」といった尺度を用いて幸福度を測ってきたのです。

ところが協調的幸福観からみると、従来の尺度はフィットしません。実際に、従来の人生満足感尺度ですと、日本や韓国がいつも低い数値になっています。ひょっとすると、獲得的幸福観は日本にマッチしていないのではないでしょうか。

そこで、協調的幸福を測る新たな尺度を作成しました。「大切な人を幸せにできているか」「平凡だが安定した日々を過ごしているか」といったような尺度です。この協調的幸福感尺度を用いて調査してみると、国ごとの文化差がフラットになり、平均値がどの国も似たような値となっています。

今までは、求める幸せが「自由」「正義」といったものでした。今はどちらかというと「脱成長」ということで、開放性や持続可能性に目を向ける必要が生じています。求める幸せのシフトにともない、最近では日本発の「協調的幸福観」が注目されてきています。

新しい独立性と協調性が、日本的ウェルビーイングを作っていく

協調性は重要である一方、他者とのつながりや協調性を意識しすぎることが、現在の日本では大きなストレス源ともなっています。また、協調性が仕事の上では「出来て当たり前」とインフラ化してしまい、きちんと評価されていない側面もあります。協調性を重視しながらも     イノベーティブさを失わないためにも、多様な人と多様なつながり方をすることを重視したり、寛容さをもとめていくことも大事です。閉じた協調性ではなく、開かれた協調性へと転換させることで、日本の職場環境は是正できると考えています。

たとえば、義務ではなく、楽しく集合活動に参加できる場があるといいですよね。来なかった人を罰するのではなく、自由に出入りできる場を担保するなど。そのように、変化を促進する制度設計を図ることが、新しい協調性と独立性の良いバランスを生み出し、日本的ウェルビーイングを醸成していくと思います。

ABOUT ME
ミキワメラボ編集部
ミキワメラボでは、適性検査、人事、採用、評価、労務などに関する情報を発信しています。

活躍する人材をひと目でミキワメ

ミキワメは、候補者が活躍できる人材かどうかを500円で見極める適性検査です。

社員分析もできる30日間無料トライアルを実施中。まずお気軽にお問い合わせください。