講演レポート

「グローバル企業から学ぶ、生産性を劇的に高めるウェルビーイング組織の作り方」

本レポートは、2022年9月28,29日に開催された、「ウェルビーイングリーダーズサミット by ミキワメ」の基調講演の文字起こしです。ウェルビーイングを牽引する様々なリーダーにご登壇いただき、組織に関する様々なテーマとウェルビーイングの結びつきについてお話しいただきました。

飯田:皆様こんにちは。この時間は、株式会社YeeYの代表、そしてアステリア株式会社のCWO(Chief Well-being Officer)としてご活躍の島田さんと、メルカリCHRO(最高人事責任者)の木下さんにお越しいただきパネルディスカッションを進めていきます。

「グローバル企業から学ぶ、生産性を劇的に高めるウェルビーイング組織の作り方」というテーマでディスカッションをしていきます。今、島田さんはウェルビーイングを日本中に広げる目的で起業されており、木下さんもメルカリでCHROとしてご活躍です。

以前は、島田さんはユニリーバ、木下さんはGEという会社で、今と異なるバックグラウンドでご活躍されていました。中小企業から大企業、日本の会社から世界の企業まで、様々な世界をご存知のお二方にお越しいただいています。

ディスカッションに入る前に、お二方から簡単に自己紹介していただきます。まず島田さんからお願いします。

株式会社YeeY 島田代表の自己紹介

島田:皆さんこんにちは。島田由香と申します。2022年6月末まで大好きな会社であるユニリーバで人事や総務に携わり、経営陣の1人として14年勤めてきました。日本全体のウェルビーイングを底上げしたい気持ちがドンドン強くなっていったため、そのことだけに時間とエネルギーを使おうと決めてユニリーバを退職しました。

現在は、6年前に作っていたYeeYという会社に軸を置いて活動しています。今日のイベントをすごく楽しみにしていました。なぜなら、達夫さんという……もう何年来ですかね?エピソードの話をしたら尽きませんが、達夫さんと一緒ということ、そして飯田さんとまたウェルビーイングという切り口でお話できることを楽しみにしてきました。よろしくお願いします。

飯田:よろしくお願いします。もともと交流があったことは理解していたのですが、21年来の付き合いということを先ほど知って驚いています。それでは、木下さんからも自己紹介をお願いします。

株式会社メルカリ 木下CHROの自己紹介

木下:皆さんこんにちは。メルカリで人事責任者をしている木下です。メルカリに入る前は外資系のHRキャリアにいました。4年ほど前にメルカリにジョインして今に至るというところです。

ウェルビーイングのトピックに関して、実は最初の会社が日本のP&Gで、人事の仕事をしていました。その時からP&Gとしてもウェルビーイングに力を入れていて、日本でもやっていました。今日も話そうと思っている内容ですが、「コーポレートアスリート」という考え方を20年以上前からやっていたんです。

島田さんと最初にお会いしたのは、まだ私がP&Gに在籍していた頃です。その時からの付き合いですね。GEはP&Gよりは若干遅れていた印象ですが、やはりウェルビーイングやサステナビリティという考え方を持っていました。そういう意味では、それがドンドン広がっている現在の状況はすごくポジティブなことだと思っています。よろしくお願いいたします。

ウェルビーイングとは何か?日本と海外で認識の違いがあるか?

飯田:よろしくお願いします。それでは早速お話を伺っていきます。まずはこのイベントのタイトルにもなっている「ウエルビーイング」についてです。人によって解釈の揺らぎがあると思うのですが、お二人はウェルビーイングというものをどのように捉えているのか?また、日本と海外の会社をそれぞれ見る機会があったと思うのですが、日本と海外でウェルビーイングの捉え方が違うのか?その辺りをセットで伺いたいと思います。島田さんいかがでしょうか?

島田:ウェルビーイングとは何か?といったら、まずはそのままWellとBeingで「良い状態」ということ。非常にシンプルですけど、自分がいい調子・いい感じと思える状態かどうかという、自分に視点を向けた言葉だと思っています。

人間が存在している前提と言えるかもしれません。私達はやはり健康でありたいと思っていますし、心身共に良い状態であるほうがパフォーマンスも出せて、良い人生を送れる。その前提がウェルビーイングだと思っています。

海外と日本の会社の違いは、特にないと私は思っています。考え方や文化の違いは多少ありますが、どちらかというとリーダーがポイント。組織のトップやリーダーがどのようなことを大事にしているかによって、ウェルビーイングの浸透や実践具合が違ってくると思います。

飯田:ありがとうございます。「いい感じであること」というのはすごくしっくりきますね。

木下さんはいかがでしょうか?

木下:ウェルビーイングの概念自体は、島田さんからお話があったように幅広く、「持続的な幸福」みたいな言い方をしますよね。人間としての根源に関わる部分だと思います。

会社として取り組むとき、どのようにウェルビーイングを位置づけるべきなのか、この点は去年メルカリの経営陣と議論しました。その後、メルカリのカルチャーを言語化して会社全体へ伝えています。今は社外にも公開しているんですよ。メルカリの採用サイトを見ていただくとわかるのですが、「カルチャードッグ」というNetflixのカルチャーデックに近いものを作っています。

カルチャードッグは毎年更新しています。去年更新した時は、経営陣と喧々諤々、そして社員とも喧々諤々と色々な議論を交わしました。その結果「Well-being for Performance」という言葉を新たにメルカリとして大事にしたい価値観として、カルチャードッグの中に明言してあります。

この言葉を入れた背景を少し説明します。まず、ウェルビーイングの重要性というものは、ここ数年で世界的に高まりました。コロナ禍になり、家族の健康の心配や様々な感染リスクにさらされる毎日に、心身が消耗していた方も多いでしょう。そこで、しっかりと社員の健康を会社がケアしていき、社員も健康を意識して取り組んでいこうという意識が世界中で芽生えていったように思えます。

そのため、グローバルにウェルビーイングという言葉をGoogle検索回数などでチェックすると、うなぎ上りでした。そうした表を見たことがあります。元々あった言葉ですが、世界中でこれだけホットトピックとして認知が高まったのは、新型コロナ発生が大きいと思います。

アメリカでもメルカリの社員から声が出て、いち早くリーダーから「会社としてそこはしっかりケアしていく」というのをメッセージとして出していました。日本を含めたグループ全体のカルチャーに入れるかどうかで議論を呼んだ点として、英語話者と日本語話者との間で、ウェルビーイングに対する理解にかなりの差があるという点が挙げられます。これは、去年議論を始めてわかったことです。

「ウェルビーイングに対する考え方を、メルカリのカルチャードッグの中に明確に記載してほしい」という意見は、日本雇用で働いている英語話者、外国籍の人達から最初に投げかけられました。「これだけウェルビーイングが叫ばれているのに対し、メルカリの経営陣はどう考えていますか?」と。ウェルビーイングをしっかりしたいという声が強かったんです。

もともとウェルビーイングという考え方やコンセプトは、比較的英語話者の間では馴染みがあります。色々な会社がウェルビーイングに関連するメッセージを出しています。そういう背景から「それじゃあメルカリはどうなんだ?」と純粋な気持ちで聞いてくれた。それがそもそもの出発点です。

そこから議論を始めました。そして、次は日本語話者の社員に「ウェルビーイングを入れようという案があるのですが、皆さんはどう思いますか?」とヒアリングしてみた。すると、「ウェルビーイングって何ですか?」という、そもそも知らないという回答が来ました。「全然理解していないのですが、そもそも会社単位で取り組むべきものですか?」といった感じです。ベースのベース部分からやっていく必要がありました。もちろんカタカナという点もあるかもしれませんが、このリテラシーギャップはすごく感じましたね。

ダイバーシティも同じことだと思っています。「本質的にどういうもの?」といった感じも、ウェルビーイングと似ていますよね。日本社会全体が、まだ啓蒙段階にあると思っています。

そのうえで少しメルカリの話に戻ります。カルチャードッグのサイトを見ていただけるとわかるのですが、ウェルビーイングをどのように定義づけたかというと、「一人ひとりが自分自身の限界を引き上げて、最高のパフォーマンスとバリューを出し続けるために、しっかりと心身のコンディションを維持する。そして、それに際してオーナーシップを持つ」これがメルカリが考えるウェルビーイングです。

メルカリはサッカーの鹿島アントラーズのオーナーでもあるのですが、鹿島アントラーズは「常勝集団」と呼ばれ、もっともチャンピオンになった回数の多いチームです。常にチャンピオンを目指して選手はベストコンディションを整え、トップパフォーマンスを出すことにコミットしている。そして、それを球団がしっかりサポートして、選手のコンディションをケアしている。この状態があってはじめて常勝集団になれるんです。

同じことが、我々ビジネスをやっているメンバーたちに当てはまると思います。これが「コーポレートアスリート」という考え方です。事業をやっていくうえでもトップパフォーマンスを出したいと思っていて、そのためには一人ひとりがプロとしてコンディションを整えていく必要があります。また、会社としても社員のコンディション調整をサポートする。それによって結果的に事業パフォーマンスは高くなり、ミッションやパーパスの達成にも近づいていきます。

こうした点を明確にして、「Well-being for Performance」に向けて一人ひとりが頑張り、会社としてもそれを支援していく。そのような形で取り組んでいます。

飯田:ありがとうございます。木下さんからお話があったように、メルカリさんのページに行っていただくと、バリューとして「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」という、大切にしている価値観や事業推進を支えるファンデーションズが定義されています。そして、「Well-being for Performance」によって、バリューを実現するための大事な基礎のひとつとしてウェルビーイングを位置づけています。

その位置づけを見て「たしかにそういう整理があるな」と私自身も勉強になったところでした。

今のお話を聞いていて、成果を出していくため、良い人生になっていくために、一人ひとりが自分のウェルビーイングに責任を持つことが大事だと思いました。また、島田さんがおっしゃっていたように、「なんかいい感じだな」と感じられることも、一人ひとりにとって非常にポジティブなことですよね。

ウェルビーイングを実現するポイントとは?【島田氏の回答】

飯田:一方で「なんかいい感じ」と思えない方や、心身のコンディションを整えるのに苦労している方も少なくありません。そうした方々がウェルビーイングを実現していくために、自分自身や周囲の人が気をつけておきたいポイントはありますか?

島田:すごく大事な問いです。一番大切なことが何かというと「いい感じって思えないな」と気づくことだと思います。そういう認識を持たないまま、なんとなくイライラ・モヤモヤしていると、その感情でまた困惑したり状況がわからなくなったりするので、よりネガティブな状況になっていきます。その連鎖には注意です。

まずは、「いい感じではないな」「いい調子ではないな」と気づくことが大事です。ただし、評価や判断はしないこと。「いい感じと思えてないのは駄目だ」「いい調子じゃないのは良くない」といったように。そこで自分のことを否定したり自己卑下が始まったり、自分の外側に理由を求めたりすると、グルグル回ってしまいます。まず気づいて、気づいたら気づいたままで良い、ということです。「なんか調子悪いんだな」「なんか乗ってないんだな、今日」というふうに、ありのままを受け止めてみることですね。まずはこのステップが大切だと思います。

ただ、「じゃあそのままでいいのか?」という疑問も当然あると思います。悪いわけではないのですが、視聴されている皆さんは、やはり「パフォーマンスを出したい」とか「周囲にいる人たちを幸せにしたい」と思っている方なのではないかと思います。そこで、認識したあとに何ができるかというと、理由を見つめること。

「調子が乗らないな」「なんかいい感じじゃないな」といった状態がどこから来ているのか、何が自分をそう感じさせているのかということを、客観的に捉えてください。これだけでもずいぶん違いが出ます。私がやる方法は非常にシンプルです。裏紙でも何でもいいので1枚紙を用意し、真ん中に縦線を2つ引き、3つのブロックを作ります。一番左には「なんか調子悪い」「いい感じじゃない」と思ったとき、どう感じているのかを書き出します。

「今イライラしている」とか「モヤモヤしている」などでも構いません。実はネガティブな感情を感じたときの4つの対処方法がポジティブ心理学には存在し、そのうちのひとつが「書く」という行為です。

ジャーナリングとも言います。書き出して視覚化すると、新たな発想が必ず生まれてきます。次は真ん中の欄に、何がそのような気持ちにさせているのか、思いつくものを書いていきます。そうすると、「やらなきゃいけない企画書をまだ手がけられていなくて、時間だけが過ぎていて焦っている」といったことや「今朝、知り合いに挨拶したのに返事がなかった。私、何か悪いことしてたかな?」といったものが紙に書けていく。些細なことがすごく大きかったりするので、小さなことに思えることでも思いついたら書くことが大切です。

紙の右側には、その中で自分がコントロールできることを書いていきます。変える・始める・やめるといったように、自分の判断でアクションを変えられることを書くんです。これをコントロールと言います。紙の真ん中に書かれているものを改善・解消できるものを書き出してみると、「そうか、今こういう状況になっている理由はここにあるんだ」とか「これは私がコントロールできることじゃないから、ちょっと置いておこう」と思えます。あるいは「これだったら今すぐ始めてみよう」といったように、予想以上にひらめきが出てきます。これがおすすめです。

飯田:ありがとうございます。たしかに、自分自身ちょっと最近悩んでいたことがあって、「何で悩んでいたのだろう?」ということを思い出しながら聞いてました。原因は意外とシンプルで、「コントロールできないからしょうがない」「ちょっと今解決しよう」とやってみると、思った以上にパッと心が晴れることは、誰しも経験があると思います。まさに自分の直近の経験を思い返しても、すごく良い対処法だと感じました。

ジャーナリングを私は試したことがないのですが、早速今日から試せるTipsをいただけたように思えます。

ウェルビーイングを実現するポイントとは?【木下氏の回答】

飯田:木下さんにも同様の質問です。アスリートのように「Well-being for Performance」といっても、アスリートが怪我することがあるのと同じように、ビジネスパーソンにも「ちょっと気分が乗らないな」という瞬間が時にはあると思います。

どのようにウェルビーイングを改善したり、パフォーマンスが発揮できる方向へと持っていけばいいでしょうか?自分自身のコントロールの仕方もそうですし、周りに対するケアや支援を含めたアドバイスがあればぜひ教えてください。

木下:まず大前提として、ウェルビーイングに対する理解が英語話者と日本語話者で違うという話がありました。日本話者の場合ですと、初めてウェルビーイングを聞く方も多い。ウェルビーイングあるあるだと思うのですが、なんとなく「健康経営」のようなものだと認識していたり、「残業しちゃいけないってことですか?」「ストレッチしないで緩い感じにするということですか?」といったような捉え方をする人は、思っていたよりもずっと多いんです。

社内だけではなく、日本社会の中でまだウェルビーイングが定着していないため、そうした反応をする人はまだまだ多いと思っています。そこをどう理解し、うまく支援していくのかが大事なポイントです。そこで「コーポレートアスリート」という表現を使っています。

アスリートが何のためにいるのかというと、オリンピック選手ならメダルを狙うといったような大きな志がありますよね。その志を実現するには、やはり大変な努力、練習、修行が必要です。ウェルビーイングも「楽をする」ということと必ずしもイコールではありません。ウェルビーイングというのは、人生の充実感・幸福感です。アスリートでいえば、アスリートとして持っている目標の実現に対して、しっかりとウェルビーイングを整えていくことが大事です。しっかりと鍛錬を重ねたり、負荷をかけていったりする点が重要なのです。

当然、負荷をかけたら筋肉痛にもなります。ただし、かけすぎると故障します。そうするとゴールの反対方向へ行ってしまうため、やはり故障しないように注意が必要です。また、選手なら誰でもそうですけど、スランプがあります。スランプはコーポレートアスリートにもあります。常にコンディションが良好な人は存在せず、みんな波があるんです。アップダウンのあるのが人間として当然のこと、誰でもそういうものだ、とみんなが受け止める。そして、ダウンになったときにどういう手当が自分にとって一番良いのかは、人によって様々です。自分の親しい人と繋がることで回復する人もいますし、「自分は休息を取ることが重要なので、少し休暇を取りたい」と思う人もいます。

回復の仕方は、人それぞれだと思います。大事なのは、筋トレと一緒でうまく回復すれば超回復できるということ。スランプや故障があったとしても、そこからの気づきや学びを得て、今度はそれを次のアップサイクルに入った時に活かせるようにする。こうした取り組みが大事だと思いますね。

飯田:ありがとうございます。自分なりの回復方法を見つけて超回復するというのは、すごく大事なポイントだと思います。島田さんのおっしゃっていた「書き出してみる」という行為も、回復するためのひとつの手法だと感じました。

木下氏の心身回復法

飯田:木下さんは個人的にいつも絶好調に見えるのですが、やはり波もあると思います。木下流の回復法はありますか?

木下:ベタですけど、まず睡眠は本当に大きいです。睡眠が6時間を切ると明確にパフォーマンスが下がりますね。ミニマム6時間で、7時間寝るとかなりすっきりして、本当に集中力が高まります。疲れたな、と思ったら少し長めに寝ると効果が出る、そんな実感があります。あえて朝ゆっくり起きるみたいなことも、大事にしていますね。

ほかには、これもベタですが運動もすごく大事だと思っています。週2〜3日ぐらいジムに行ったり泳いだりしています。リズムを作ると「すごくいい汗かいた」「スッキリした」という感覚があります。人によって違うと思いますが、自分にとって一番合うリズムを作っていけたらいいと思いますね。

飯田:ありがとうございます。非常に参考になります。回復法やウェルビーイングとの向き合い方という点について、お二人からお話をいただきました。

ウェルビーイングに取り組めない状況で、何をすればいいのか

飯田:視聴者の方からたくさん質問をいただいています。「事業で求められるスピードが非常に早かったり、業務量も多かったり、社員が疲弊しています。ただ、そのスピードを緩めるとビジネスがうまくいかなくなりそうなので、ウェルビーイングに取り組める状況にはとてもありません」というコメントがありました。

社員の立場からできることは、限定的なのかもしれません。こういう厳しい環境に置かれている方、あるいは周囲のウェルビーイングへの理解が不足している状況でできることは、何かありますか?

島田:今の質問は、すごくよく耳にすることで、どこにでもあり得る状況だと思います。ただ、少しきつい言い方になりますが、私には言い訳にしか聞こえません。私自身、何十年も組織にいたので状況は十分わかっているつもりです。人事を見てきた一人として、社員がウェルビーイングであること、良い状態であることなしには、狙いたいパフォーマンスを出すことや業績を出すことは絶対にありえませんでした。

ですので、これは少し罠みたいな状況だと思うんです。「スピードを緩めると売上が落ちるんじゃないか」といったように。そうすると、社員が疲れていき、堂々巡りとなってしまいます。やはりここはリーダーの判断、リーダーシップ、決意・覚悟みたいなところが大事になってくるのではないでしょうか。

やってみなければわからないことだからこそ、一時期だけでも余裕を与えてあげること。そこに「回復」が必ず関わってきます。疲れた状態のままだと、売上どころか大きな事故に繋がる可能性もあります。覚悟が必要なのはわかりますが、さっき話に出てきた「睡眠」が、絶対に必要なんです。超回復の回復が何から来るかというと、脳を休めるところからしか来ないんですね。

「コーポレートアスリート」と達夫さんは言いましたが、私たちは本当のアスリートではありません。メタファーとして使っている言葉ですよね。アスリートの方は筋肉を作るとか、本当に身体を使った運動をしています。彼らに必要なのが身体を休めることである一方で、体よりも頭や気を使う仕事をしている私たちに必要な休息というのは、脳を休めることなんですよ。そのために一番大事なことが睡眠なのですが、それを日中でもやれるのが「マインドフルネス」と言われる時間です。

これはスキルですし、マネジメントや経営にとっても必要な時間だと思います。今のリサーチだと、1日に12秒から20秒でいいと言われているんです。ちょっとだけ目をつぶり、呼吸に意識を向けて3〜5回ほど深い呼吸をして、自分が今どういう状態にいるのかを見つめます。「肩凝っているな」「腰が痛いな」といったことでもOKです。心身の健康状態に気づく時間をとるだけで、脳がものすごくリラックスします。

マインドフルネスを実践すると、仕事で一番使う前頭葉が活性化します。たとえば、ミーティングの開始前、みんなワサワサしますよね?前のことを引きずって来たり、遅れそうになってちょっと罪悪感を感じていたり。ほかにも、そのあとのほうが大きなミーティングで、それが気になりながら参加している状態であったり。心ここにあらずな状態のまま、とにかく売上を上げて、とにかく頑張らなければ……とやっていても、効率は落ちるだけです。

最初の2〜3分でもいいので、マインドフルネスをする。「ちょっと目をつぶろう」と提案し、3分間呼吸を意識してみる。この時間を取るだけでも、ミーティングの質がすごく上がりますよ。紙に書き出すこと以上の効果があるんです。

ウェルビーイングへの理解が足りない人へのアプローチと言われても、このご時世でその重要性がわからない管理職がいるのだとしたら、はっきり言ってあげたらいいと思います。「ウェルビーイングのこと知ってますか?」と。言い方は気をつけたほうがいいと思いますけど、知っている人・わかっている人・大事だと持っている人がウェルビーイングを実践していくんです。つまり、皆さんのことです。

必ずしも全部リーダーから始める必要はありません。リーダーからだったら早いのですが、私たち一人ひとりからでも大事なことを伝えていけます。今日聞いてくださっている皆さんには、自分のウェルビーイングをいつも高い状態にすることをまず実践してもらいたいと思っています。

人のことを考える前に「OK、じゃあそれをやろうとしている自分が、今良い状態なんだろうか?」と問う。「自分は満たされているのか、疲れているのか?」といったように。その時に私が使う切り口が「PERMA」と「SPIRE」です。ウェルビーイングを高めていく切り口がPERMAで、保つ切り口がSPIREです。これらを活用してセルフチェックしてみて、「あ、今ちょっと休みが必要だな」と思ったら休めばいいんです。先ほどの達夫さんの回復法みたいに、皆さんが自分の回復法を知っていることが大事なポイントだと思っています。

飯田:ありがとうございます。そういう意味では、今のお話が「Well-being for Performance」という木下さんのお話にも通じてくるように思えました。

波があることや悪い状態を認めることは、むしろやったほうがいいということなんですね。さらに、自分でマインドの持っていき方や行動を少し変えると、周囲のウェルビーイングの状態をある程度変えられる。これはすごい発見だと思いました。

少し横道にそれてしまいますが、この「PERMA」というモデルを提唱されたセリグマン先生は、ポジティブ心理学の創設者でもありますが、明日ご登壇いただきます。

島田:私達も、2018年にセリグマン博士をお呼びしました。本当に素晴らしい方なので、みなさん絶対聞いてください。弊社YeeYの顧問もやっていただいています。

飯田:そうなんですね!

ウェルビーイングに取り組みにくい環境に立たされている人へのアドバイス

飯田:木下さんにも質問です。「ウェルビーイングなんてやっている環境じゃないよ」といった方に対して、自分自身や周囲のウェルビーイングを高めるためのアドバイスはありますか?

木下:経営陣やチームのマネジメントをしている人と話す際、ウェルビーイングという言葉をよくわかっている方であれば話もすぐ通じます。ただし、どうしてもキョトンとされてしまう方も多い印象があります。そこは徐々にやっていくとして、すごくわかりやすい話としてお話ししたいのが「ピークパフォーマンス」について。パフォーマンスを高めるために必要なのがウェルビーイングなんです。そして、パフォーマンスを可能にしているものは、実はエナジーなんです。私達に必要なのはエナジーマネジメントです、というと比較的わかりやすい。

エナジーは有限です。もう少しだけ頑張ってもらうことは一時的には可能かもしれませんが、長期的には無理ですよね。どんなに優秀な電子機器でも、充電が切れたら使えません。人間だろうが電子機器だろうが、エナジーマネジメントをしっかりしないといけない。

エナジーが有限というのは、経営者でいえばお金が有限なのと同じです。経営のひとつのリソースとして、それをどのようにアロケーションしますか?という話なんですね。エナジーを重要なところに向け、逆に重要じゃないところは避ける、エナジーをセーブする、リダクションするといったように、よりパフォーマンスが高い部分にフォーカスしていきます。

ほかにも、エナジーマネジメントが有限だとしたら、「この時期に稼働している人は◯◯さんだけど、次に稼働する人は◯◯さん」といった感じでうまくバトンリレーができるような体制が取れると持続性が出てきます。

たとえば先ほどアスリートを例に挙げましたが、野球で投手が連投し続けると肩を壊しますよね。高校野球で一時問題になったと思います。同じことが、実はビジネスをしている我々にも当てはまる。

一時的な無理はできるものの、それはあくまでも一時的。しっかり休養して、また次に勝負できる体制を整えることが、いわゆるエナジーマネジメントです。能力の高い投手がいれば、ここぞという勝負どころで頑張ってほしいですよね。そうすると、やはり投手にはしっかり休養を取ってもらうことが重要です。これがわかりやすい例えだと思います。そのためにお互いバックアップ体制を取りましょう、ということです。

「いや、社員は増やせない。でもエナジーマネジメントを何とかしたい」というときは、今すごくホットトピックになっている「働き方改革」。ぜひこの点に踏み込んで話をしてほしいと思います。業種や事業モデルによってやれることは異なるかもしれませんが、もっとやれる余地があると思うのです。

メルカリの例でいうと、メルカリは去年の9月に「YOUR CHOICE」を導入しました。フルリモートOK、日本全国どこから働いてもOKです。働く時間もフルフレックスにして、自分自身で決められます。つまり、住む場所も働く場所も時間も自分で選べる。しかも、承認を受ける必要なし、というような制度を導入しました。1年経ってフォローアップ調査をしてみたら、なんと半数ぐらいの方がすでに引越し済み、もしくは引っ越しを検討している状況です。

今は9割がリモートワークで、1割ぐらいが出社している状況です。「オフィスのほうが自分はパフォーマンスが高い」「人と話すことでストレス発散できる」という人には、遠慮なくオフィスに来てもらっています。結果として1割という出社率になっています。

" target="_blank">サーベイをやってよかった点は、フルフレックスが導入されたことによって、7割の人が堂々と中抜けをしている点です。もちろんチームに迷惑がかからないように、「自分はこういうワークスタイルでやっています」「この時間は抜けます」といったことをカレンダーで共有し、サプライズにならないように配慮しています。

https://www.recme.jp/lab/entry/survey/

中抜けをすることで、自分のタイミングで休んだり、お昼寝ができます。お昼寝することで、実は午後のパフォーマンスがすごく上がります。大事なのは、ライフスタイルの多様性です。コロナによっても一段も二段も多様性が高まったと思います。それは家庭の状況や家の間取りなどの問題もあるかもしれません。個人の好みもありますよね。一人ひとりによってライフスタイルのニーズが違うんです。

できるだけ自分に合ったライフスタイルを送るのが、ウェルビーイングに繋がると思っています。それが結果的には、エナジーマネジメントとも繋がる。自分のエナジーがより高まり、高いエナジーが引き出される。または、自分のエナジーがより早くリカバーしていく、そのようなことに繋がると思います。

先ほどの中抜けするというお話も、最初は「やっていいのかな?」という罪悪感を持つことがあります、特に日本人は真面目な人が多いので。そうした人達へは「会社が求めるのはパフォーマンス」「自分のパフォーマンスが高くなる時間の使い方をしていいんだよ」と伝えます。そうして少しずつ実践していくと、だんだんと慣れていきます。

そうしたアクションを取っている人が周りにどんどん増えてくると、「自分もやっていいんだ」といったように心理的安全性が上がってきます。人員は同じ10人だけれども、実は前よりもパフォーマンスが上がった状態が作れているのは、時間的もしくは場所的な柔軟性を高めた結果だと思います。通勤時間が無くなっただけでもかなり大きいと思いますし。

新しいやり方でエナジーマネジメントをもっと実践していくと、大きく変わっていくように思えます。

島田:少し追加してもいいですか?達夫さんがおっしゃっていたことは、ユニリーバで2016年に「WAA」を入れた時に明確に起きた変化でした。実際、制度がなくてもマネジメントできますし、会社経営もできますよね、そこにきちんとプリンシプル(信条)さえあれば。ただし、制度できちんと明文化して「いいよ」と言ってあげることで、認めてもらえた、許可をもらえたという安心感に繋がるんです。

制度というのは、本来より良い日々を送るため、より良い仕事ができるためにあるものです。そういう意味で、いろいろなことを明文化して伝えていくとか、良い意味で制度にしていくことの重要性を改めて、今の達夫さんの話を聞いて思いました。

タイムマネジメントではなくてエナジーマネジメント、という点でいうと、エナジーは有限だけど充電できることを知っておいてほしいんです。その充電が何かといえば、先ほどのマインドフルネスや昼寝、睡眠や運動といったように、自分がポジティブな感情を感じられる行為です。フローに入る……お風呂じゃないですよ(笑)。フロー状態に入るという意味です。集中・没頭・没入、つまり「PERMA」を感じることが、結局エネルギーを高めることに繋がります。

そのことと同じことを達夫さんが言ってくれていると思います。ユニリーバでもヨギボーの部屋を作っていて、「ここで昼寝していいですよ」とスペースを開放している。別に机に突っ伏して寝ても構いません。結果として自分がきちんとパフォーマンスを出せればいいんです。自分が自分のことを一番わかっているはずなんです、どうだったら調子がいいのかは。

ですので、どこで何をやったら一番結果が出やすいのか自分に意識を向けて、エネルギーを大事なことに使えばいいんです。「なんかちょっと落ちてきたな」と思ったら、回復のためにエナジーを充電する。これが回っていくと本当にうまくいくと思います。

飯田:ありがとうございます。実は別のセッションでトヨタ自動車さんにお越しいただきました。トヨタさんがTOTONE(トトネ)というものを試作しています。これは昼寝ができるデバイスです。脳疲労から回復するためには良い睡眠を取ることが大事なので、昼寝するためのデバイスを作って先行販売する予定らしいです。

日本の会社、トヨタ自動車さんでもウェルビーイングに向けた取り組みをやっています。一部の外資系企業だけやっているものではないんですよね。突き詰めていくと、結局はウェルビーイングを担保するためには、自分自身でウェルビーイングに責任を持ち、エナジーを充電していく。充電できるのであれば、別に中抜けしても昼寝しても問題ない。そういう世の中に今後必ずなっていくと思います。

視聴者からの質問を拝見すると「ちょっとうちでは無理ですね」「私にはちょっと難しいです」という声が結構あります。まずは勇気を持って上長の方に言っていただくとか、自分自身が実践してウェルビーイングになっていき、同時にパフォーマンスを高めていく。本日は6千人以上にお申し込みいただいている一大カンファレンスになっています。まずこのイベントに参加している我々がウェルビーイングの実現やパフォーマンスの向上を進めていき、将来的に日本中へウェルビーイングの輪を広げていきたいと思いながらお二人の話を伺っていました。

早いもので、残り時間数分です。あと5〜6時間ぐらいやれる感じですが。

島田:裏番組がやりたい(笑)。

飯田:(笑)ぜひ企画させていただきます。

木下氏からの視聴者へのメッセージ

飯田:最後に、視聴者の皆様に一言ずつコメントをいただいて本コンテンツを終了します。まずは木下さんお願いします。

木下:ウェルビーイングはまだまだ認知度が低いという課題意識がありますが、今日参加していただいた方からドンドン発信していただいて、日本社会においてウェルビーイングが当たり前になってほしいと思っています。その時に、どうしてもウェルビーイングのことが「緩い」「ふわっとしている」といった印象を最初に持たれる方が多いので、ウェルビーイングというのは、メルカリでいうと「Go Bold」大胆に挑戦する、未来を創る、実際に自分の理想を実現するために必要な部分なんだよ、といったことがウェルビーイング初心者にスッと入っていくようにしたいと思っています。

ぜひ皆さんの力を得て、日本の社会でもっとウェルビーイングの概念が当たり前になるようにしていきたいと思っています。今日はありがとうございました。

島田氏からの視聴者へのメッセージ

島田:今日は久しぶりに達夫さんとのコラボでした。メルカリさんみたいな大きな影響力の会社でウェルビーイングを堂々とやっていることは、凄くパワフルだなと思いました。

とにかく意識の主語を自分に置いてみましょう。あの人がどうとか、この人がわかってくれないとか、そういうときこそ自分を整えるチャンスだと思いましょう。何か気になることや不本意なことがあった時、自分を整えてくれる先生がいると思えばいいんですよ、「私をこういう気持ちにさせる人がいるけど、そうかじゃあこういう時に自分はどう整うかな、どうやってウェルビーイングを保とうかな」というふうになっていけばいいと思っています。

YeeYという会社のホームページに、色々なやり方やアドバイス、記事などを載せています。「yeey.co」で調べてください。見ていただけたら、何かしらヒントになることがあると思います。

今日6千人の方が視聴くださっていると聞いて、びっくりしました!6千人が今日から一気に自分のウェルビーイングに責任を持ったら、これはすごいことになります。私は2025年までに、日本の人口の25%がウェルビーイングな状態を作りたいんです。皆さんはもう一味ですので、今日から一緒にウェルビーイングを高める取り組みをやっていきたいと思います。

「あ〜ツラい」と思い始めたら、達夫さんや私の顔を思い出してください。なんとかなると思います(笑)。以上です。

飯田:ありがとうございます。皆さんも今日から一味ということで、共にウェルビーイングを推進していきたいと思っています。この時間は木下さん、島田さんにお越しいただきディスカッションしてきました。島田さん、木下さん貴重な機会をいただきましてどうもありがとうございました。

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