用語集

終身雇用とは?定義やメリット、成り立ち、企業ができる対策とは

日本企業において古くからある終身雇用。一般的に、新卒採用時から定年まで同じ企業で継続的に雇用されることを意味します。

日本経済の成長を後押ししてきた雇用制度ですが、2019年のトヨタ自動車の豊田章男社長の「終身雇用を守っていくのは難しい」発言に代表されるように、近年「終身雇用が崩壊した」という声を耳にすることが増えました。

本記事では、終身雇用の定義やメリットとは何か、崩壊したと言われる背景や企業ができる対策についてわかりやすく解説していきます。

終身雇用の定義や目的とは?

終身雇用についてより詳しく学ぶために、定義や目的を見ていきましょう。

終身雇用の定義とは?起源は英語【Lifetime Commitment】

終身雇用とは、新卒採用時から定年まで同じ企業で継続的に雇用されることを意味します。

日本に古くからあったものではなく、1958年出版の著書『日本の経営(ジェームス・C・アベグレン著)』内で初めて用いられた言葉です。著書内の「Lifetime Commitment」の訳語であり、比較的新しい用語だといえます。

著書は、終身雇用・年功序列・企業内労働組合を「日本的経営」の特徴として挙げ、欧米諸国における日本企業研究のバイブルとなっていて、日本=終身雇用というイメージ定着にもつながりました。また、「日本的経営」の特徴と言われていることからわかるように、終身雇用は日本特有の雇用慣行になります。

終身雇用の目的とは?制度を導入した企業の背景

終身雇用の目的は大きく2つあります。まず、労働力を確保することです。従業員は将来の心配をせずに仕事に専念できるので、企業が従業員を確保しやすいわけです。

次に、長期的視点で人材育成することです。自社におけるノウハウを蓄積し、戦力となる従業員を育成するためには時間がかかります。また、総合的スキルを高めるためには、配置転換や異動も必要ですが、終身雇用はそれらを実現しやすいのです。

【引用】1,2

これまでは、終身雇用的な我が国の雇用慣行の下で、企業も労働者も長期的な観点から人的投資への取組を積極的に評価し、動機付けられてきた。

内閣府『平成28年度 年次経済財政報告』

終身雇用に法的な義務はある?

終身雇用は日本特有の雇用慣行、あくまで慣行=ならわしなので、法的な義務はありません。

企業と従業員の間で結ばれる労働契約において「無期雇用契約」を結べば終身雇用になります。つまり、下記に該当しない限り、従業員は定年まで雇用が保証されます。

このように、終身雇用では労働者はとても守られている存在です。

終身雇用崩壊までの歴史|日本で浸透した背景とは?

ここからは、日本における長期雇用の制度化プロセス:制度理論からの仮説の提示を参考に、終身雇用が日本で浸透した歴史や背景を4つのフェーズに分けて見ていきましょう。

フェーズ1|長期雇用の導入期:第二次世界大戦以前

日本企業における長期雇用は、明治末期から大正期が起源と言われています。急速な工業化に追われ、労働力不足をなくすために労働者の定着が必要でした。また、1920年代以降は、労働運動への対応として大企業を中心に長期雇用が導入されました。

フェーズ2|制度定着期:高度経済成長期まで

第二次世界大戦以後、日本経済は何度か不景気を経験しながらも、長期的には成長期を迎えました。この間、企業は年功序列や退職金の制度を整えることで、従業員の定着促進に積極的でした。同時に、生活のため安定や賃金保障を求める労働者は後を断ちませんでした。さらに、採用のターゲットを若年層に絞った新卒一括採用も普及したこともあり、終身雇用制度の定着を後押しします。

フェーズ3|制度転換期:高度経済成長期から2010年代前半

労働に関する法律が整備され、労働者がより一層守られる立場となる一方で、バブルの崩壊や日本企業の成長鈍化を背景に希望退職者を募る動きが活発になりま。企業の業績が苦境を迎え、終身雇用を企業運営における足枷と考える声が出てきました。

フェーズ4|崩壊期:2010年代後半〜現在

欧米由来の成果主義・ジョブ型雇用の輸入、長期化する経済不況などを契機に、終身雇用の保障が困難な時代に突入しました。2019年には経済界トップから相次いで以下の発言がありました。

日本経団連・中西宏明会長

「制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが限界になっている」(引用元:朝日新聞デジタル『経団連定例会見より』

トヨタ自動車・豊田章男社長

「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入った」(引用元:日経ビジネス『日本自動車工業会の会見より』

現在の日本は終身雇用が崩壊したとは言い切れませんが、これらの発言や日本経済の危機的状況を考慮して、2019年は終身雇用崩壊元年と言われるようになりました。

FIRE、副業、転職市場の盛り上がりもその一端といえます。

終身雇用のメリットとは?企業と従業員の目線で解説

企業側・労働者側のメリットを見ていきましょう。

企業側の3つのメリット

企業のメリットは3つです。

1.長期的視点での人材育成

従業員は40年近く同じ会社に勤務するため、じっくり時間をかけて自社ノウハウや知識を蓄積できます。転勤や配置転換も計画的、定期的に実行しやすいです。

2.労働力の確保

従業員の定着率が高いため、企業は労働力を確保できます。適材適所、過不足なく人員配置可能なため、新規事業へ人員投入や組織体制の構築を、十分な計画性をもって実行できます。

3.従業員の帰属意識の向上

自社の経営理念や企業方針が浸透した従業員を育成できます。帰属意識が高い人材は、生産性が高く熱心に仕事に打ち込み、自分のポテンシャルを最大限に発揮できる可能性が3.5倍高まることもわかっていて、企業への貢献度も高まります。

【引用】

筆者らがセンター・フォー・タレント・イノベーションで実施した調査によると、職場に自分の居場所を見出している人は、より生産的でモチベーションも高く、熱心に仕事に打ち込む。組織への貢献度についても、自分のポテンシャルを最大限に発揮できる可能性が3.5倍も高まるという。

ハーバードビジネスレビュー『同僚と声をかけ合うことが生む驚くべき効果』

従業員側の2つのメリット

従業員のメリットは2つです。

1.安定した収入と雇用

基本的に終身雇用制度では、安定した収入と雇用を得られます。精神的余裕や、生活資金を蓄えることが可能です。

2.将来設計ができる

長期的な将来設計が可能です。マイホームの購入、子どもの教育費、定年後の海外旅行など、安定した収入があるからこそ貯蓄や計画が可能になります。

終身雇用のデメリットとは?企業と従業員の目線で解説

メリットとデメリットは表裏一体です。

企業側の3つのデメリット

企業のデメリットは3つです。

1.ローパフォーマーも抱え込まなければならない

終身雇用によって定着率が向上する一方で、人材の新陳代謝が悪くなります。そのため、仕事への意欲がないローパフォーマーも、抱え込まなければなりません。ときに、彼らは他者のやる気を奪う存在になるため、終身雇用のデメリットといえます。

2.従業員が二極化する|向上する従業員とぶら下がる従業員

終身雇用は、従業員に安定した収入と雇用を与える一方で、「今よりスキルアップしよう」という危機感が芽生えにくいです。そのため自己啓発に勤しむ従業員と、企業にぶら下がる従業員に二極化します。ローパフォーマーを生み出す要因とも考えられますね。

3.給与調整が難しい

終身雇用とセットで運用される年功序列や新卒一括採用は、従業員の勤続年数に応じて給与が上がる制度です。成果主義などに比べて、従業員個人の能力や成果で給与を調整できないため、人件費が膨らみやすい点が特徴です。年齢が高い従業員が増えれば、人件費が業績を圧迫する恐れもあります。

従業員側のデメリット

終身雇用の従業員にとってのデメリットは下記です。

モチベーションや目標を失いやすい

十分な成果や成績を残せなくても退職まで企業に在籍できるため、努力を続けるモチベーションが保てず、目標を失いやすいといえます。これは、組織の一体感や生産性低下につながりかねません。

終身雇用の崩壊過渡期に企業ができる対策とは?

終身雇用制度は、企業と従業員の双方にメリットがありました。

しかし、日本経済の長期低迷、海外からの成果主義やジョブ型雇用といった賃金体系・雇用形態の輸入が重なり、終身雇用は崩壊の危機を迎えています。

株式会社ワークポートが転職希望者へ行った調査では「定年まで働くことを想定していなかった人が約70%」であり、活発化する転職市場においては終身雇用に頼らない姿勢が定着しつつあるといえます。

そこで、終身雇用の崩壊過渡期であり、労働人口の不足や競争激化が予想されるなか、企業ができる対策を3つご紹介します。終身雇用制度の廃止検討などにお役立てください。

キャリア開発に注力する


終身雇用を廃止するのであれば、人材確保のために定着率アップの施策が求められます。そこで、中長期的なキャリア開発に注力することをおすすめします。「新型コロナ流行前から転職を検討していた人の転職理由の1位がキャリアアップ(54%)」であるという調査結果もあり、よりキャリアアップを実現できる業種や職種を求める人材が増えています。

新たな人事評価制度を導入する

年功序列制度に代わる人事評価制度の導入はいかがでしょうか。新たな人事評価制度では、成果や能力などより個人の実力に応じた評価制度の整備が求められます。勤続年数ではなく、成果や能力で正当に評価されるのであれば、向上心を持った人材が自然と集まり、ローパフォーマーは離れていく組織になります。

多様な働き方を受け入れる

優秀な人材が離職しないよう、多様な働き方を受け入れることが大切です。自社方針にマッチする人のみでなく、多種多様を受け入れる大きな受け皿が必要です。育児、介護、副業などさまざまな従業員が仕事の満足感を高められるよう、フレックスタイム制やテレワークなどを導入しましょう。働き方に重きを置いた福利厚生は自社の企業価値を高められます。

まとめ

日本経済を支えてきた終身雇用は、制度定着から50年近く経過した現在、経済の低迷が長期化する日本において、終身雇用は崩壊の過渡期を迎えています。時代や経済状況の変化に合わせて、古き良き制度から実態に即した制度への見直しが求められているといえるでしょう。

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