講演レポート

人事のための実践心理学~人事実務と心理学をつなぐアプローチ方法~【人材研究所曽和氏・リーディングマーク佐藤氏】

本レポートは、2022年1月12日に開催された、「みんなのHR博覧会 byミキワメ」の基調講演の文字起こしです。各テーマに沿って、「はたらく」を「よく」するを徹底的に語り尽くしていただきました。

人事実務と心理学をつなげるアプローチ

飯田:この時間は、「人事のための実践心理学~人事実務と心理学をつなぐアプローチ方法~」がテーマの講演です。人材研究所代表の曽和さん、そしてリーディングマークの佐藤さんにお越しいただいています。よろしくお願いします。
 
曽和佐藤:よろしくお願いします。

飯田:本日は心理学の専門家である佐藤さんと人事の専門家である曽和さんのお二方に来ていただいているので、心理学と人事の関連性をテーマにしながら話していきたいと思っています。

ちなみに、お二人は京都大学時代の先輩と後輩なんですよね?

曽和:だいぶ歳は違いますが(笑)。

飯田:在学時は被っていないものの、出身は一緒ということですね。先輩・後輩という間柄で、いろいろ本音の話を伺えると思い、楽しみにしていました。

それでは簡単に自己紹介をお願いします。

人事コンサルティングのプロであるお二人

曽和:皆さんこんにちは。人材研究所という人事コンサルティング会社の代表の曽和と申します。私はリクルート、ライフネット生命、オープンハウスといった会社で働いてきており、40歳まで人事の実務をやっていました。その後、今の人材研究所を立ち上げ、かれこれ10年経ちました。現在は、日系や外資、大手やベンチャー企業に対して、人と組織に関するコンサルティングをお手伝いしています。本日はよろしくお願いします。

佐藤:株式会社リーディングマークの佐藤と申します。現在はコンサルタント兼R&Dの研究者として活動しています。元々は京都大学から大学院に進んで臨床心理士の資格を取得し、博士課程で実践と研究のトレーニングを積んで、その後は京都文教大学で教員として勤務してきました。2020年から現職で、ちょうど2年ぐらいになります。

入社後は、人事担当者や経営者の皆様に対し、延べ150社ほどの組織分析や性格検査活用のお手伝いをしてきました。臨床心理学の専門家として、カウンセラーとしての知見も活かしながら、採用や組織開発を実践的にサポートしています。本日はよろしくお願いします。

飯田:よろしくお願いします。佐藤さんのように、研究者という立場から人事の実務に入ってくるのは珍しいですよね。

曽和:ほとんどいないんじゃないですか?どちらかというと、社会やビジネスに関心を持っている心理学者はそこまで多くない印象です。

佐藤:そうですね、そこが課題であったりもします。

心理学の専門家がビジネス現場に飛び込む意義

飯田:本日は、人事の実務と心理の専門家であるお二方をゲストスピーカーとしてお迎えしています。曽和さん、2年ほど前に佐藤さんがビジネスの世界へ入ってきたということで、いろいろ質問したいことがあるそうですね。

曽和:心理学の専門家と言われると、本当の専門家の方に失礼となりますね。私はアイデンティティは人事実務家です。今日は「人事に心理学をどうやって導入したらいいのか」というテーマなので、私から佐藤さんへ聞きたいことがたくさんあります。質問を始めてもいいですか?

飯田:はい、お願いします。

曽和:佐藤さんが会社に入ると聞いた時、英断だと思いました。人事は本来的にもっと心理学を応用すべき分野だと思うんです。それなのに「人事に心理学が浸透していないな」と問題意識をずっと持っていたので、専門家である佐藤さんが高い壁を超えてこちらの世界に来てくれたのは、喜ばしいことです。

人事と心理の専門家が交わっていくことで、知識も移っていきます。研究者から現場への知識移行だけでなく、人事の現場の様子も研究者へ共有されます。実は、人事実務家が課題視していることを研究者が研究していないケースも多いんですよ。佐藤さんには、その橋かけになってもらいたいと思っています。

心理学は人事にほとんど浸透していない?

佐藤さんに質問です。心理学の世界にどっぷり浸かってきた佐藤さんですが、人事の実務の世界に入ってみて、正直なところ心理学がどれくらい人事の世界に浸透している感触がありましたか?

佐藤:そうですね、浸透という点ではほぼゼロに近いような。

曽和:ゼロですか!(笑)

佐藤:もちろん心理学的なことを発信している方や、心理学側にも産業組織心理学や産業メンタルヘルスのような領域もあるため、心理学的な知見を用いたサポートや組織に関わるアプローチは存在します。ですが、現場の人事担当者さんとやり取りするなかでは、「人事と心理学が繋がるのは新鮮でした」という意見が7〜8割を占めていたので、まだまだかと思います。

曽和:働き始めて感じたということは、直近の2年間ということですね。

佐藤:はい。セミナーなどに参加してくれた方からは、そのような反応が多い印象でした。実際は心理学的なことをやっているのですが、「心理学だと思っていなかった」ということがありますね。

曽和:先ほどの打ち合わせのときも話していましたが、実践なので、研究的なアプローチではないこともありますよね。原理原則を発見するためにやっているわけではなく、「自社の退職をなんとかしたい」「いい人を採りたい」「ハイパフォーマーを見定めたい」ということが目的なので、別に心理学の理論に基づいて説明されなくても、うまくいけばいい。少し言い過ぎかもしれませんが。

佐藤:そういうことだと思います。「これはこの理論で説明できますよ」という説明が大事だとは思っていません。もちろん理論化して共通認識を作るのは大事だと思っていますが、結局実務で効果がないと意味がありませんよね。理論上はこうです、と言われても「そうなんですね」としかならないので。
「どう気をつければいいのか」「その理論的な懸念が生じないために、実務上何を意識したらいいのか」といった実践的な知識と理論は、あまり繋がっていないように思えます。

曽和:確かに心理学が浸透していないことによって、いろいろな施策が対症療法的・近視眼的になってしまうのは問題ですよね。

物事を単純化することの弊害

曽和:他にも、佐藤さんがビジネスの世界に入って感じたこととして、「単純化して物事を理解しようとする傾向が強い」というお話を打ち合わせ時に伺いました。これについてはいかがですか?

佐藤:学問的なアプローチとしての心理学は、原因を追究するために複数の要因を想定し、要因ごとに切り分けてデータ化します。つまり、「結局何が影響しているか?」という問いに対して、切り分けて考えるアプローチをするんです。

ビジネスの世界だと、原因や要因がごちゃごちゃになっているパターンが多い気がします。たとえば離職率を下げていきたいときに、離職値の高い原因を一つに決めつけている傾向があります。「単純に合わない人を採用してしまったからだ」とか、「採用後のオンボーディングが不十分だからだ」などと。
全部が関係あると思うのですが、何が一番ボトルネックになっているか分析するには、「しっかり数値化して捉えよう」「複数の要因を切り分けて考えよう」「要因の絡まり合いを明らかにしていこう」といった学問的なアプローチが必要だと思います。

曽和:人事担当者といっても、ビジネスパーソンですからね。ビジネスパーソンだと複雑なことをシンプルに捉えたい気持ちが働きます。KPI(=重要業績評価指標)のように、この一つの数字を追えばOK、という具合に。
一方で人と組織は複雑怪奇なので、「物事は一つの理由で起こっているのでない」というのは現実ではありますが、これを単純化しようとする思考が逆に分析やアプローチの邪魔になってしまう可能性もあるということですね。

佐藤:やはりスピードが大事なときもありますし、シンプルに考えて効果が出る場合もあります。ただし、人間のことに関しては、シンプルにやりすぎると逆に多様性を失う可能性もあるので、シンプルに捉えすぎるのも危険ですね。

曖昧な「人・組織」と、白黒つけないといけない「ビジネスの世界」のバランス

曽和:人事担当者の方や経営者が人事のことを考えるときは、曖昧耐性が高くないとだめかもしれませんね。飯田さんは経営者なので、白か黒かみたいな判断を求められますよね。

飯田:そうですね。

曽和:でも人事ではグレーという判断がほとんどなので、白黒はっきりというやり方だと問題がありますよね。

飯田:佐藤さんのお話で「きちんと要因を切り分けて分析していきましょう」という話がありました。つまり、要因を切り分けて白黒はっきりつけるということだと思うんです。人事はふわっとした議論をしている領域だと思っている人もいるかと思いますが、本来はきちんと要因を切り分けて、「なぜこういうことが起きているのか」と考察していくものです。学問的なアプローチで白黒はっきりついたり、原因がわかったりするというのはビジネス的アプローチでも同じかと思います。

今後は、学問的・ビジネス的アプローチの融合が進んでいくといいですよね。

曽和:そのとおりですね。パワポとかで色を選ぶときでも、ものすごく濃いグレーや薄いグレーといったように細かく決めますよね。イメージとしては、そのように解像度を高めていく感じです。

そうすると、曖昧な存在である「人・組織」と、白黒はっきりつけないといけない「ビジネス世界」のちょうどいいバランスが見つかります。灰色という言葉しか無かったら灰色としか言えないものにフレームを与えていくのが、心理学ではないでしょうか。
たとえば性格心理学でしっかり定義された用語を用いれば、「コミュニケーション能力」にもいろいろな種類があることがわかりますし、「自己効力感が生まれる原因」もさまざまだと理解できるようになります。要するに、心理学を活用すれば、曖昧なものを明確にしてくれる段階的なものが作れるのではないかと思っています。

人事に活きる心理学は、どうやって学べばいいのか?

飯田:曽和さんから事前に「心理学をどうすればもっと人事の実務に取り入れていけるのか?」という課題意識を伺いました。今までの話を伺うと、それを実践したほうがいい理由が非常に腑に落ちます。私も経営者の立場なので、早速試してみたいと思います。やるのは大変ということもありますが。

曽和:大変ですよね。心理学を使うのが、人事にとって必要だと理解したとします。「では、取っ掛かりをどうしたらいいか?」というと、実はいい本があまりないんですよね。

心理学の本自体はたくさんあります。興味のある本としては面白い心理学本を読めばいいのですが、心理学は体系的に学んでいく必要があります。たとえば「この理論なら、組織はこうしたらいいはずだ」という判断が、ベストかどうかわからない。他にも要素が複数あるのを理解したうえで、「○○の理屈に基づいた施策を打つ」という流れでやっていかないといけません。

大学院試の教科書になっているような心理学の本は、実務家には何に役に立つかわからないまま読むとたぶんつまらないと思います。ただ、学問を体系的・全体的に学んでいくことで、その時々に出会う人と組織の課題に、どの原理原則・理論を使ったら良いのか判断できるようになります。
とはいえ、ビジネスパーソンにしてみたら、乗り越えるのに少し壁がありますよね。佐藤さんが実務の世界に入ったときに、「なぜこれほど心理学が浸透していないんだろう」と感じた理由は、まさにその点だと思います。

佐藤:断片的な知識はあるものの、それが心理学全体の中でどこの位置づけになっているのかが、把握できていないということですよね。心理学と一口に言っても、臨床心理学や産業組織心理学などさまざまです。「エンゲージメントの話を聞いて学んだ。これを組織に生かしていきたい」という状態で別の課題に直面したときに、それもエンゲージメントの話なのか、または別の理論を活用したほうがいいのか、そうしたマッピングは自分の中にはあります。

曽和:最初は忍耐力が必要ですよね。簡単に心理学の本を読んでOKというよりは、一から教科書を読む。できれば大学の心理学本を読む。

飯田:佐藤さん、本の出版予定はないんですか?

佐藤:今のところはありません(笑)。

心理学を活用するなら、活用する側も自分を理解しておくこと

曽和:人事の世界で心理学があまり浸透していないというお話がありましたが、特にギャップが大きいな、浸透していないなと思った点はどこでしょうか?

佐藤:人事の皆さんは日々実務をされていますよね。商品を扱ったりというよりは、人を扱う領域だと思います。心理学と同じですね。重要な点は、人と向き合うときは向き合う側も人であると自覚することです。心理学においても、心理学を実践する人自身が心理を持っています。

自分がどういう見方をしやすいのか、パーソナリティーはどうなのか、と自分のことを理解したうえで人と向き合う必要があるんです。
そうして少しずつ客観視できると思います。自身のことを振り返る視点を持っている人事の方は、そこまで多くない印象です。

曽和:採用担当者の場合、人のことはたくさん聞くのですが、自分のことを掘り下げていない方もいらっしゃるかと。これをご覧になっている意欲の高い方はそうではないと思いますが。

私がリクルート人事部に在籍していた際、通算で100人以上、自分のメンバーがいましたが、自己認知が低い人も多かったように思えます。そこで適性検査をやらせて、それをフィードバックする機会を頻繁に設けてみたり、または定量的なものだけではなく、互いの性格、能力、価値観をフィードバックする機会をたくさん作ったりと、自己認知を高める取り組みなどをしていました。

面接官は自分に似ている人を採用したがる?

曽和:自己客観視がないことで、人事の方が実務をする際にどのような問題が起こるのでしょうか?

佐藤:一番の問題は、採用面接のときに、自分に性格が似ている人に対して評価が高くなることが挙げられます。「自分に似ているから良く感じるのだろうな」という自己理解の視点がない場合に起きてしまいがちです。カウンセリングの用語で自己一致と呼ぶのですが、実際カウンセリングに相談しに来ている人…面接だったら候補者ですね。候補者から常に影響を受けながら面接しているはずなんです。その影響性を自覚しながら面接しましょう、そういった理論です。

「明るい人だからいいな」とか「出身が関西だから親近感がわくな」と思った場合に、自覚しながら評価する。そうしないと多様なバイアスに採用合否が左右される可能性があります。

飯田:以前、弊社の面接官の合否傾向を調べたことがあります。面接官ごとの合否結果を見ていくと、実は自分に似た人を合格にしやすい傾向が出ています。

ガンガン主張する人は、主張する人材を好むことがありますね。私の場合は社交欲求が高くありませんが。

曽和:そうすると、今日ツラいですね(笑)。

飯田:これぐらいの人数ならギリギリいけます(笑)。おとなしい性格なので、「おとなしいけどじっくり考えている人」を合格させる傾向にあるというのが、私の場合出ることも。

人事の実務を心理学のアプローチを通じて改善していく方法の1つ目として、「自己客観視できるようにする」というキーワードをいただきましたが、経験上からも重要と感じています。

会社を客観視する必要性

曽和:人と組織という曖昧なものを見る関係上、バイアスがかかりやすいこともありますよね。適性検査などは、リクルートにいたときからSPIだけでなく色々なものを受けていました。競合だからと受けられなかったテストもありましたが(笑)。

さまざまな検査を受けてみてフィードバックするのが効果的だったので、それも一つ有効な手段かと思います。採用や人事評価に限らず、何をやるにしても自分の組織がどういうパーソナリティーから作られていて、どのような人たちなのか理解することが大切です。

例えば社交欲求が低い人たちで成り立っている会社なのに、「金曜日の夜はピザパーティーだ!」と言ったら絶対スベリますよね。IT企業だったらピザパーティーかなと素朴に思っている会社、多いと思います。ピザパーティーぐらいなら害は無いのですが、人事制度などで競争心が高くないのに成果主義を入れてもうまくいかないと思うんです。
自己認知を高めることや、組織自体の自己認知、これらを対象にして人事は仕事をしないといけません。そのためにも客観視を心がけ、何らかの形で見える化するのは大事だと思います。

現状、それができていないケースが多いのでしょうか?

佐藤:そうですね。やっている方もいますが、当たり前という感じではありませんね。

有意差があるだけではデータとして不十分

飯田:他にも心理学の視点で見たときに、「これは大事だからもっと浸透させていきたい」という概念はありますか?

佐藤:研究アプローチをやっていた身として、大事なのに抜けていると感じた点は、データの適切な分析の仕方、いわゆるデータリテラシーの部分です。統計学に「有意差」という用語がありますが、有意差の言葉が独り歩きして、有意差自体の意味が共有されていないケースも見られます。相関という言葉もそうですね。

人材データを数値で見ていくことが今後ますます多くなると思いますが、分析していくうえでのデータの読み方などの知識は、なかなか浸透しづらい気がします。

曽和:有意差があるとなっただけで、鬼の首を獲った感じになりますよね。「すごいことがわかった!」でも実際にはそこまでのことではなかったりします。

佐藤:おっしゃるとおりです。実は研究界隈では、有意差があるだけでは意味をなさないというのがトレンドになっています。統計上の有意差ではなく、実質的な差や効果がちゃんと見られるのかを見極める必要があります。有意差というのは、データ数を増やせば増やすほど出やすくなるものなので、研究の世界では、有意差があるだけで判断するのは過去の話になっています。

曽和:今言ったようなことがある程度わかるような状況になっておくと、今後人事は良くなっていくということですね。

佐藤:そうですね。意味や効果のあるポイントをデータから適切に読み取り、実践でアプローチしていくべきです。

データ活用法の学び方

曽和:だいぶ話が変わってしまいますが、この前ある会社で「人事部・エンジニア」というタイトルの名刺をいただきました。ようやくそういう時代になってきたかと思いました。

飯田:それは面白いですね!

曽和:とはいっても、人事と聞くとやはり文系の方が多い印象ですよね。文系寄りの人は、データに関する勉強をどのようにしたらいいでしょうか?データサイエンティストになれとまで言われたら、キツイと思うので。

佐藤:私も統計学の専門家ではないので、ユーザーとして統計学を学んでいます。ユーザー向けの本はけっこうありますよ。数式ではなく文章で説明されていたり、実際の現象に結びつけて説明してくれたり。数式が苦手で、数学が出てくると拒否反応を起こす方もいますが、そういう方は「マンガでわかる統計学」みたいな本でもいいと思います。わかりやすく統計学のポイントを押さえられているので。

心理統計学みたいなアプローチをしている本もたくさんあるので、そういうところから入っていくといいと思います。

曽和:RMS(リクルートマネジメントソリューションズ)の入江さんの本もおすすめです。「人事×データ」って最近出てきていますよね。心理学×人事の本はまだ少ないので、心理学の教科書などを頑張って読んでみる。頑張ってみると他社との差別化に繋がります。

飯田:私も含めて気をつけたい点として、なんとなくデータを見て「こういう傾向が出ているな」と直感で判断して、実はデータの読み込み自体が間違っているケースが散見される印象です。
そうすると、間違った洞察を経て間違った判断へと繋がってしまいます。データを使ったつもりになり、かえって状況が悪化することもあるので、指摘していただいた点は非常に重要なポイントだと思っています。

評価軸が曖昧となる問題

曽和:他には何かありますか?

佐藤:他には、人を見る視点や評価軸が曖昧な状態である点が挙げられます。現状、評価軸が何も決まっていなくて、面接官がすべて個人で判断しているケースも見受けられます。

評価項目はあるけれども、評価基準がバラついている場合もあります。他にも、評価基準は揃っているものの、深さや判断の仕方にバラつきがあったりしますね。

曽和:面接官の目線を揃えることは、多くの会社で課題になっていますよね。まず基準がそもそも曖昧です。一番よくある曖昧な感じなのは、「一緒に働きたいと思う人を採れ!」というもの。でも、実はそういう基準で採用するのが、一番バイアスが働いてしまいますよね。

会社で働いている人材を再生産する試みは、まったくだめというわけではありません。ただし、言葉は定義されているけど、そもそもの言葉の定義自体が曖昧な段階に陥っていることがよくあります。
または、言葉の解像度は高いけど、ちゃんと意味を適切に選んでいないという段階も存在します。
最後の段階としては、言葉の意味は合っている。でも、採用基準・評価基準と、実際に評価しているときに使われている基準が違っているケースがあります。これが実は一番やっかいです。

飯田:単語でわかったつもりにならず、言葉を文章で定義する行為が意外と抜け落ちているのかもしれませんね。弊社でも「物事を達成する力」とか「導く力」といった言葉はたくさんあるのですが、もっと言語化しないといけないと感じました。

「素直である」「コミュニケーション能力が高い」などは、人によって定義にバラつきがありますよね。

曽和:例えばサイバーエージェントさんも、「素直でいいやつ」と言っていますよね。サイバーエージェントさんの場合は、こういう人だという共通認識があったうえで、あえて言葉としてはシンプルにしているのではないかと思います。こうした試みは、言葉が社内へ浸透しやすいので有効だと思います。ただ、一度は解像度を高くしてみて、あとはラベルとして「社内ではどのような言葉を使おうか」という順番でやっていく必要があります。

「コミュニケーション能力」「主体性」「素直」「いいやつ」といった言葉を使ってもいいと思うんです。重要なのは、ひと手間かけているのかどうかだと思います。

飯田:言葉がある、定義がある、それでもバラつくことってあるよね、という点が、まさに曽和さんが言っていたように難しい点ですよね。

曽和:定義はわかりました、では模擬面接をやってみよう!とトレーニングをさせていただく機会もよくあります。ところが、どれだけ定義はしっかりしていたとしても、実際に学生と面接してもらって。すり合わせずに「よーいどん」でやってみると、評価結果のバラつきがすごいです。一度にぴったり合うなんてことはほぼありえません。

単に定義を理解したらそこで終わり、ではないということです。どれだけ理性的に理解していても、最後は感覚で判断していくようなときには、必ずバイアスが入り込みます。バイアスを自分がどう持っているのかを見据える作業が重要です。

長く人事や面接をやっている方であるほど、自分は大丈夫と思ってしまいがちです。経営者は特にそうした傾向にあると思います。「大体こうだろう」と判断する方も多いので。
そうした目に見えない問題をいかに表に出していくのかがポイントですよね。飯田さんが言っていたように、どんな人を合格にし、どんな人を不合格にしているのか把握できるデータは面白いと思います。

佐藤:実際にある会社で分析したケースを紹介します。面接がいくつかあり、例えばグループディスカッションのときには「コミュニケーションが円滑な人がいい」という評価で、調整役タイプの人が高い評価を得ていました。ですがそのあとの面接で、調整役タイプの人は「主張の弱い人」ということで落ちてしまったケースも。

せっかく選考を進められた人が、そのあとの状況や評価基準の変化によって落ちてしまうケースがあるので、どの段階で何をみるのか、しっかり設定していくことが大事だと思っています。

評価基準はどのように揃えればいいのか?

飯田:曽和さんに実務の観点からの意見をお伺いします。「評価基準を作ったけど、現場と上層部で認識が違う」といったように、判断軸が揃っていないことはよくありますよね。どのように統一していけばいいでしょうか?

曽和:言葉がそもそも揃っていないと話になりませんが、基本的には毎回の面接でのすり合わせを大事にしてみるといいと思います。前の選考を担当した面接官がどう思ったのかを徹底的にすり合わせてみる。もし評価が違っていたとしたら、それは情報を聞けなかったからなのか、採用基準の理解が間違っていたのか、それとも自分のバイアスが原因だったのかを延々と突き詰めていくしかないと思います。

実はちゃんと時間をかけて面接のすり合わせを行なう企業は多くありません。特に不合格者だと「不合格なんですりあわせても仕方がない」と単に終わってしまったり。今後、少子化で人が採れなくなっていくため、不合格者の中でも「自社に合わないように見えたけど、実は合っている人」をどうやって見つけ出すかが採用力に繋がってくるはすなのですが。

そういう意味では、合格・不合格の判断に関わらず、インタビューの問題、採用基準の理解の問題、自分のバイアスの問題、といった全ての事柄に対してすり合わせを行なう。そのように調整していくしかないと思います。

人事における適性検査の活用

飯田: 話を聞いてきて、自分や周りの人達が自分のことを客観視し合うこと、データを使いながら正しいスクリーニングをすること、評価軸をブラッシュアップすることは、佐藤さんが言っていた「客観視」「データの活用」「評価軸の設定」といった3つのキーワードに繋がってきますよね。全部を繋げてPDCAを回すのが重要かと思います。

性格検査というキーワードもありましたね。性格検査の活用に皆さん興味はあるものの、どうやればいいのかわからない人も多いかと思います。今回のテーマに性格検査の活用は関連してきますか?

曽和:性格適性検査は何十年も前からありますよね。基本的には採用応募者に対して行なうものですが、むしろ社員に対してやるのがポイントだと思います。ただ、みんな嫌がるのか、なかなか浸透していかないんですよね。会社によっては、人事が適性検査をやるというと「何かあるのでは?」「人事異動や評価に関係するのでは?」という不安を社員が抱きます。不安を理解し、払拭するための説明の場を設けるのが大切です。

まずは、「自分たちがどのような組織なのか」「どのような人たちで構成されている会社なのか」を見ていきます。これをまずチェックしておかないと、適性検査を活用しようと試みても、なんとなくの感覚で「この部分は高いほうがいいよね」などバイアスが反映されてしまうので、それはむしろ逆効果です。

まずは社員に会社のことを深堀りしてもらうのが先かと思います。

佐藤:まさにそれを「ミキワメ」でやっています。実際にデータ分析をやってみると、「ここは予想通りです」「ウチの組織はこういう人が多いです」というものもあれば、「一見すると高いほうが良さそうな数値が、実は低かった」「低い数値の人がけっこう活躍しているな」と意外な事実がわかったりします。

「逆のタイプの人を採用していたけど、実は別タイプの人のほうがウチに馴染むのでは?」などと、具体的なことが見えてくるので実用的です。

曽和:リクルートでは当然ですが(笑)SPIを使っていました。SPIの項目でみると、リクルートでは自責性が低い人ばかり活躍していたのですが、採用のときは言葉上では「自責性の低い人がいい」といったように言っていました。これがよい例ではないかと思います。

評価基準がズレているのは問題なのか?

飯田:視聴者の方から「そもそも評価がズレているのは問題ですか?」という質問をいただきました。お二人のうちどちらかに回答願います。

曽和:今までは結果オーライみたいな感じで、みんなの真の採用基準がズレていたことで多様性といいますか、欲しい人材ポートフォリオが結果としてなんとなくできていたイメージです。今後はもっと精度を高めるために、適性検査などを入れていく必要があると思います。

採用の集客は、徐々にスカウトメディア化していますよね。広告であれば採用基準がズレていても、集客された人の中に色々な人が混ざっているものです。でもスカウトメディアを使う時に基準がズレていると、正確に間違った人を採ってしまいます。そうした時代背景や採用の移り変わりを考慮してみると、評価基準がズレているのは問題だと思います。

飯田:ありがとうございます。やはり評価軸は揃えたほうがいいということですね。

評価軸の揃いすぎは、ダイバーシティ推進の妨げになる?

飯田:視聴者の方から「評価軸を揃えすぎると、ダイバーシティを担保できないのでは?」という質問をいただいています。評価軸を揃えていくことと、ダイバーシティの関連性をどう考えればいいでしょうか?

佐藤:評価基準としては、能力的な評価もあれば、価値観や考え方、性格の評価もあります。人間は多様なので、ちょっとした評価で同類が集まることはまずありません。会社だと、例えばリーダーシップを取って引っ張る人もいれば、引っ張られる厳しさのある中でチームを支えるポジションの人も必要になってきますよね。

多様性が重要な理由というのは、人がたくさんいるほうが色々な考え方をぶつけあって議論できたり、クリエイティブになりやすかったりする点があります。つまり、議論がぶつかりやすくなることが一つの理由としてあるということです。そこが大事なので、基準をちょっと決めただけでは、画一的な人が集まることにはならないでしょう。

飯田:きちんと評価軸を作り、統一性を担保していく。一方で職種ごとの基準もあるため、そもそも同質にしようとしても意外と散らばるということですね。

理想の評価軸の作り方

飯田:次の質問です。心理学のアプローチを基に、社内にどういう人がいるのかを明らかにして、そのうえで評価軸を作るという議論がありました。今の姿が正解とは限らず、目指すべき会社像がある中で、どのように評価軸を作ればいいのでしょうか?

曽和:今うまくいっていれば、今の姿を再生産するのもOKだと思います。ただ、普通は現状がベストであることは少ないですよね。だから心理学が重要になってくるのだと思います。

心理学の中に「職務適性理論」があります。こういうタイプの仕事だったらこういう性格や能力の人が合っているはずだという理論です。それと現在の姿を見比べた時、もしギャップがあったとしては「なぜだろう?」と考える。色々な条件があるので、自社としてはこれでいいのかもしれないし、「こういうタイプはウチで採れていないけど、隠れたハイパフォーマーとしてターゲットしていく必要があるな」と考えることも可能です。

そういう意味でも、まず理論を学ぶ必要があります。現実の姿が理想とは限らないので、理論を活用すべきかと。スタートラインとして、今どういう人を採用しているのか把握する試みは必要だと思います。30%ぐらいしか必要ないタイプを、60%採っていたことってよくあるんですよ。分析を通じて、その差分を埋めていかないと駄目だということが明らかになります。

佐藤:入社した人が2〜3年後にどうなっていくのか追跡し、データを蓄積する取り組みも有効です。

飯田:話は尽きませんが、お時間になってしまいました。お二方とも本日はありがとうございました。

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