講演レポート

働きがいのある組織の創り方〜2021年版「働きがいのある会社」ランキング上位企業と考える〜【ナイル高橋氏・フラッグシップオーケストラ大澤氏】

本レポートは、2022年1月12日に開催された、「みんなのHR博覧会 byミキワメ」の基調講演の文字起こしです。各テーマに沿って、「はたらく」を「よく」するを徹底的に語り尽くしていただきました。

組織と働きがいについて考える基調講演

飯田:皆さんこんにちは。基調講演のナビゲーターを務めている飯田です。この時間は、『働きがいのある組織の創り方〜2021年版「働きがいのある会社」ランキング上位企業と考える〜』ということで、ナイルの高橋社長、そしてフラッグシップオーケストラの大澤社長にお越しいただいています。本日はよろしくお願いいたします。

高橋大澤:よろしくお願いします。

飯田:お二人とも私の知り合いということで、リラックスして本音をお聞きしていきたいと思っています。お二方ともただ友人だから呼んだわけではなく、組織づくりにおいて日本を代表する実績を上げている方たちです。

まずナイルさんに関しては、『Great Place to Work』の働きがいのある企業ランキングにおいて、なんと7年連続上位入賞されています(現在は8年連続上位入賞)。加えて『OpenWork』の企業の口コミ・評価ランキングでも総合5位。まさに日本を代表する働きがいのある企業です。

フラッグシップオーケストラさんも、『Great Place to Work』の小規模企業部門において1位を獲得されています。こうした実績から、お二方とも数字でも素晴らしい組織を作っていることがわかります。

では、最初に自己紹介をいただきまして、そのあとパネルディスカッションに入ります。後半には皆さんの質問にお答えしていくので、聞いてみたい質問があればQ&Aボタンを利用しご質問ください。

最後に、アンケートに関してです。お答えいただいた方には本講演のアーカイブ動画をURLでお送りしますので、ぜひアンケートにもご回答願います。

ナイル株式会社高橋社長の自己紹介

飯田:それでは前置きはここまでにし、まずは高橋さん自己紹介をお願いします。

高橋:皆さんこんにちは。ナイル株式会社代表取締役社長の高橋飛翔と申します。ナイルは2007年に大学在学中に起業して作った会社で、以来約15年間に渡り経営者を務めています。

事業領域は、3つあります。1つは企業のデジタルビジネスを成長支援する「デジタルマーケティング支援」。2つ目が、自社で様々な領域へのメディアを展開する「メディアテクノロジー」。3つ目が、2018年から新規事業として参入した「自動車産業のDX事業」です。車を月1万円ほどの月額価格で持てる消費者向けのマイカー保有サブスクリプションサービス「おトクにマイカー 定額カルモくん」を展開しています。

本日は本社の様々な組織づくりの制度・工夫・考え方について紹介していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

飯田:ちなみに社員数は現在何名ぐらいですか?

高橋:250人ほどです。

飯田:増えましたね!さすがです。

株式会社フラッグシップオーケストラ大澤社長の自己紹介

飯田:続いては大澤さんお願いします。

大澤:皆さんはじめまして。フラッグシップオーケストラの大澤と申します。本日はよろしくお願いします。弊社は従業員数でいうと社員が40名ぐらいで、業務委託を入れると50名ほどの組織です。

事業としては動画ビジネスをやっています。メイン事業としては「ムビラボ」という、いい動画を安く大量に作る制作サービスを行なっています。月間で1千本ほどの動画を作っているサービスです。
そこでのデータを基に、動画マーケティングに活用するサービス「ムビラボアド」も展開中です。動画自体のデータが溜まってきたので、今度は配信型に回ろうということで配信ツールを提供していたりと、動画にまつわる様々な課題を解決するために、会社自体が動画解決のプラットフォームになれるような立ち位置でやっています。

働きがいのある企業ランキングで一位を取らせていただいていますが、まだまだこれから困難が待ち受けているだろうなという成長フェーズなので、学びを得ていきたいと思っています。よろしくお願いします。

飯田:よろしくお願いします。ちなみに私も組織づくりという観点では千社ぐらいお客様がいるため、特にすごい組織づくりをしており、リスペクトしているお二人のお話を楽しみにしています。

高橋:すごいハードルが高いですね(笑)。

飯田:このあとのセッションのハードルを上げさせていただきました(笑)。
提供するサービスも素晴らしく、2社に発注させていただいたり、今も発注している状況です。

本日は、数百名の人事や経営者の方々に同時視聴いただいている状況です。会社の情報発信というところでWebマーケティングやクリエイティブ制作に力を入れていこうと考えている方も多いと思います。コンテンツマーケティングやSEOというところですと、ナイルさんが最大級になっていますし、動画制作という点では、大澤さんの会社が月間千本ぐらい動画を作っています。これから自社の魅力を発信していきたい方は、ぜひお二人に相談してみるといいと思います。

ちょっと褒めすぎて嘘臭くなってしまったかもしれませんが、ここまでの話は本当です。では本当にそうなのかというところを、具体的な質問を通じて皆さんとディスカッションしていきたいと思います。

組織づくりで大切にしている考え方や価値観

飯田:まず、組織づくりとなると、どうしても短期的な施策や短絡的な打ち手を追い求めたくなる点があります。大事なのは根本的な価値観や哲学だと思うのですが、お二人には特に組織づくりで大切にしている考え方や価値観を伺いたいと思います。

高橋:そうですね、ナイルの場合は事業家集団という点を大事にしています。様々な職種の方が同じ企業の中で働いていく場合、どの職種もあくまで事業的な成果を達成するための手段としてスキルを使っていく前提に立脚してくださいと伝えています。そういう人と一緒に我々は働きます。

事業という言葉が示すものは色々とあります。売り上げや利益はもちろん、顧客満足度、ユーザー満足度、そうしたものをより高めるために我々は事業家として活動していきます。その手段として、我々の持っている技術、スキル、アセットがあるのだと。まずはこれを前提としたコンセプト設計を行ないました。そこが非常に大きかったと思います。

スペシャリストと事業家であることの違い

飯田:事業家集団というシンプルな言葉の中で、様々なエッセンスを詰めていただいているように思えました。最近ジョブ型人事やスペシャリストを育てるって流行っていますよね。特に御社は幅広い職種の方がいる中で、例えばエンジニアリングのスペシャリストであったり、セールスの得意な人であったりと、いろいろな方がアプライしてくると思います。

スペシャリティがあるのと事業家であるということは、どのような違いがありますか?

高橋:スペシャリティをどのような目的の下に使うか、ですかね。スペシャリストの方が陥りがちな問題としては、スペシャリストであるがゆえに、自分の技能をさらに磨くためにその技能を使ったり、過大な時間を割いたりしてしまうケースがあります。これをやられてしまうと、多くの事業会社においては、「事業が大事なのになぜ技術のための技術なことをやっているの?」「TVCMをしたいがための広告プランニング」となってしまいます。

あくまでも売り上げを上げる、利益を上げる、顧客やユーザーを大事にする、事業を大事にすること。それが様々な技能の方が組織として集まり、何かを成さんとする目的だと僕は思っています。ナイルでは、スペシャリティのある人もゼネラリストも採用します。「事業のために我々は働く」ということを明確化しています。

飯田:なるほど。ではエントリーマネジメントのタイミングで、かなりスクリーニングが厳しく、事業家集団ということに賛同できない人はそもそも入社できないということですか?

高橋:弊社の場合、倍率が100倍ぐらいあります。

飯田:100倍!?

高橋:月1,200件ぐらい求人応募をいただいて、入社するのが7〜8人という感じです。

飯田:なるほど。ありがとうございます。
事業家集団ということで、組織の根本的な価値観の部分をお伺いしました。

ミッション・バリューから逆算して考える

飯田:大澤さんはいかがですか?

大澤:そうですね。月並みな言葉かもしれませんが、会社をやっていくと様々な制度を作ったり、いろいろなことを実施すると思いますが、絶対にミッションやビジョンから逆算して考えるよう徹底しています。何をやるにしてもそうですね。これが何かを作る時のルールです。

もう一つがメンバーに対して。採用時にも役立っている考え方なのですが、とにかく個の力を伸ばすことにフルコミットします。ベンチャー企業なので、10年選手は珍しい時代になってきています、いずれ卒業するだろうと。そのため、我々の中だけで活躍できる存在を育てていても、メンバーに響かないし、「何のためにやっているんだろう?」となってしまいます。

今やっていることがメンバーの市場価値を高めるものなのか、という観点で会話していますし、メンバーへのマネジメントフローも全部それを基に設計しています。

飯田:なるほど。ちなみに御社のミッション・ビジョンはどのような内容ですか?

大澤:弊社は少し特殊です。企業理念としては「“非”常識を常識に」と定めています。そして、今やっているのが動画事業なので、動画事業という枠でまたミッションやビジョンがあります。事業をやっていくたびにミッションやビジョンを作っていきますが、大元は「“非”常識を常識に」と定めています。そこに信条やポリシーが紐付いていく形です。

個人と企業の成長は二律背反しないか?

飯田:ミッション・ビジョンを達成しながら利益をしっかり上げていくと話されていましたが、一方で個人の成長を大切にする方針というのは、あるようでないような、珍しいポイントだと思います。個人の成長と会社の成長は、ともすれば二律背反するような部分もあるでしょうか?それとも、個人の成長を純粋に追い求めていけば、ミッション・ビジョンの達成にも繋がっていくのでしょうか?

大澤:僕はそう思っています。表裏一体といいますか、個人の成長の集合体が会社の成長になると思っています。弊社が最初からスペシャリストチームとして立ち上げた会社ではないという点も、もしかしたら関係しているのかもしれません。動画のスペシャリストなしで動画事業を始めたので。

飯田:けっこう大人数でスタートしていますよね?

大澤:友達同士で起業したみたいな感じですね、元アパレル従業員とかいたり。訳のわからない状態で起業しているんです。ですので、個の力が必然的に必要だったこともあります。

あと、メンバーが取り組む業務は、ミクロの積み重ねで成果に繋がるのが一般的だと思います。仕事は、やっていて楽しかったことが少なかったりとか、大変なことが多かったりしますよね。ですので、業務自体が何に繋がっているのか見るときは、やはり個に焦点を向けているほうがみんな腑に落ちるのかなと思います。

適切なフィードバックが社員を成長させていく

飯田:高橋さんはどう思いますか?

高橋:僕は「人間は挑戦の繰り返しでしか成長しない」という考え方を持っています。挑戦してうまくいかないこと、わからないことが出てきた時に、適切なフィードバックを受けられる環境がほぼすべてだと思います。ですので、自分の部下へのフィードバックは、最初週2などで回しています。オンボーディングできてきたら、週1→隔週→月次になるような形で、フィードバックのループが回る環境を常に作ることが大事です。

全社的にも、ナイルのメンバーは全員隔週以上の頻度で上司から1on1を受ける体制になっています。個の能力を伸ばす観点でいうと、座学で教えるとかは一切やらず、基本は挑戦機会を常に与え続けます。常に上司から隔週以上で良好なフィードバックをもらえる環境を作る。そうすると、できることが増え、報酬が増え、業績が上がる。そのような考え方をしています。

動画×エンゲージメントによる社内コミュニケーション

飯田:なるほど。ありがとうございます。フラッグシップオーケストラさんも、社内でのコミュニケーションを密に取っていると以前伺いました。具体的にはどのような施策でしょうか?

大澤:弊社の場合はオンライン中心のコミュニケーションで、コロナ発生からずっと続けていますが、「雑談機会を混ぜよう」というのがテーマです。

コロナ禍で物理的なコミュニケーションが失われてしまったのは大きかったです。一番の取り組みは、動画会社ということで、動画でコミュニケーションを取るきっかけを作ろうと、ムービーとエンゲージメントを掛け合わせた「ムービメント」という施策をやっています。

先日、とある社員同士が会ったのですが、入社して一年半も経つのに「はじめまして」だったんです。ですが、「ムービメント」のコンテンツの一つに、その人の生い立ちなどを紹介するコンテンツが全員分あります。メンバーが何の事業をやっているのかも全部コンテンツとして入っており、それをお互い観ていたので、初めて会った気がしなかったそうです。そうした状況を意図的に起こせるように取り組んでいます。

高橋:いいですね。

飯田:今の話で高橋さんからは、しっかりとフィードバックをし、成長していく気づきを与えるための公式なコミュニケーションを丁寧に繰り返しやっていくこと。そして、大澤さんからは雑談などを含めたコミュニケーション量を増やしていくことをお話いただきました。まとめると、公式・非公式のコミュニケーションを担保していくことの大切さについて言及していただきました。

マネージャーの育て方

飯田:ただし、コミュニケーションが単に多ければいいというわけではないと思っています。特に企業が成長していくためのポイントは、「マネージャーや中間管理職をどう育てていくのか」「コミュニケーションハブをどう作っていくのか」という点にあると思います。

お二人はマネージャーに対して、どのようなコミュニケーションをメンバーへ取ってもらっているでしょうか?また、マネージャーをどのように育成しているのでしょうか?

大澤:難しいですよね(笑)。

高橋:(笑)

飯田:ちなみに、人事や経営者の方にアンケートを取ると、悩みランキング一位に上がってくるものです。

大澤:僕も常に悩んでいます。弊社がちょうどそういうフェーズでもあります。ただ、古臭い考えかもしれませんが、中間層のメンバーが「コミュニケーションが取れない」「取っていてもうまく伝わっていない」とストレスを感じてしまうのは、上げる基準にあると思います。

コミュニケーションの単純な物量もありますよね。言語化を頑張ってするしかないと思っています。なんとなく感じとってよ、というやり方は無理という前提で動いています。

飯田:それは大事ですよね。プレーヤーとしてすごい人をマネージャーに上げよう、と試みても、必要となるスキルセットが全く違うため、スタックしてしまいがちです。まずきちんと基準を作り、運用することが大原則というところですね。

マネージャーは採用8割、能力開発2割

飯田:高橋さんはいかがですか?

高橋:考え方から説明すると、採用8割、能力開発2割だと思います。会社にマネージャーとして能力不足だと思う人しかいない、かといって他に上げる人もいない。そういう場合は、かなりの確率で採用が間違っています。

研修などを通じてマネジメントの基礎力、ボトムスをしっかり担保することは大事ですが、3点の人が40点に上がることはあっても、90点まで上がることはありえません。「うちのマネージャーは最低40点取ろうね」という能力開発しか僕はできないと思っています。

ですので、座学はあくまで、ナイルが大事にしているマネジメントの大原則や基礎を外さない目的で取り入れています。そこから先は採用の問題ですね、採用と挑戦の数です。先ほども言ったように、マネジメント領域でも、3人のマネジメントをしたことない人が10人やるのは大きな挑戦ですよね。10人のマネジメントだと、自分の時間の使い方が全然違ってくるので、普通に今までのようにやってもうまくいきません。

それを「なぜうまくいかないのか?」と考え、適切なタイミングで上席にいいフィードバックをもらえると、「あ、こうやれば10人マネジメントができるんだ」と基礎力がバーンと上がっていく。その繰り返しが大切だと思っています。

採用者の見きわめ・基準

飯田:それは言えていますね。基準を作るという大澤さんの話と根底で共通している部分があると思いました。どういう人を採用・登用していくのが前提としてあるということですね。

採用する人の見きわめや基準という点に関しては、いかがでしょうか?

高橋:ミキワメ(笑)。あえてミキワメという言葉を使ったのかなと。

飯田:日常会話でもつい使ってしまうんですよね(笑)。

ミキワメを使うこと以外で、特に将来すぐに採用したいマネージャーの採用基準や、社内の登用基準はどういうものでしょうか?

大澤:新卒と中途でだいぶ異なります。新卒も今の弊社のフェーズですと、みんな鼻息の荒い人が入ってきます。みんなが幹部系になれるかもしれないと期待を込めて進めています。

飯田:今の人数で新卒採用をやっているのは早いですね。

大澤:そうですね、10人くらいのときからやっています。

飯田:新卒だとどういう人を採用したいですか?

大澤:根底にあるのは、目指しているビジョンやマイルストーンが同じかどうかです。応募者がやってきたことは様々だと思いますが、彼らが辿ってきた生き方と会社のビジョンなどがマッチするかどうか、そこを見るのが一番ミスマッチの少ない方法だと思っています。新卒だとスキルという概念はあまりないので。

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飯田:なるほど。ミッションやビジョン、社内での活躍の仕方をしっかり把握しているからこそ、そもそもボタンの掛け違いが少なく、エンゲージメントが高いということですね。

中途採用はどうでしょうか?近い将来、マネジメントをやってほしいという方の採用はありますか?

大澤:あります。我々の場合は今まで、マネージャーの積極採用はありませんでした。しかし、これからまさに必要になってきます。

採用要件からしっかり考えないといけませんよね。現場からの声が、リソース観点で言っているのかどうかを見きわめることが大切です。常にリソース観点でいきます。人なんて常に足りませんから。人事を中心としたものか、経営者中心としたものなのか、そこらへんの観点をしっかり持って設計していかないと、「そもそも来る人が変だな」といった状態が起こりがちです。

「人は人を見きわめられない」という前提から採用を考える

飯田:ナイルさんの場合は、新卒採用中心→中途採用中心→新卒採用の再開という流れだと伺いました。将来マネージャーになってほしい人に対して、どのような採用基準をお持ちですか?

高橋:新卒に関しては、完全に社員へ任せています。中途の話でいうと、かなり確固とした考え方に基づいて採用しています。まず、ナイルでは従業員ごとにランクがあります。スタッフならスタッフ2や3、そこから分化して「M1」「M2」「E1」「E2」といったように。Mはマネージャー、Eはエキスパートです。

グレードごとに、「事業家としてこういうことができる」と全部明確に定義されています。1グレードあたり30〜40ぐらいの言葉で定義されています。そうすると、人がほしいとなったときに、「M1クラスがほしい」といったような会話ができます。それが採用条件やすり合わせの基準になります。

また、実際に採用するプロセスについても、ものすごくこだわっています。人事の方は『ワーク・ルールズ!』という本を読むことをおすすめします。私は5回読みました。
Googleが行なっている採用選考では、書類選考→1次→2次→3次面接のあとに、ワークサンプルテストを行ないます。実際入社した場合に取り組む業務をテスト形式で解いてもらい、さらに性格診断を実施します。

その後、取締役全員が参加する採用委員会において、「どのようなミッションをこの人に課すべきか」「このミッションはこの報酬に値するものなのか」「報酬に対してこの人のランクは妥当なのか」という議論を展開します。ガバナンスが利いている取締役会のような感じです。

そしてオファー面談という場において、例えば「600万円という年収は、6ヵ月後にこの能力水準に達し、成果達成していることに対して我々が提示する金額です」と伝えます。
6ヵ月後に到達していなかったら、我々の期待を下回っている。逆に短期で実現したり、よりアップサイドにいったりすれば、期待を上回っている状態です。期待を上回ったら基本的に昇給してきますと。

Googleでは入社前にそのようなコミュニケーションを交わすことで、応募者とのチューニングを済ませてから採用するそうです。前提にあるのは、「人は人を見分けられない・見きわめられない」という点です。
僕は今までたくさん採用してきましたが、惚れ込んで「この人絶対ウチにほしい!」と採用して失敗したことが山ほどあります。ほとんどの人が、自身の人を見きわめる能力を過大視しています。
プロセスをちゃんと踏み、いろいろなガバナンスを敷いた状態の中で採用していかないと、間違った採用をしてしまいます。採用において一番駄目なのは、間違えた採用をすることです。

日本の雇用制度において、人の雇用はものすごくハードルが高いものです。とにかく「失敗したな」という採用をしない、できるだけ減らしていく。このプロセスづくりを重視している感じです。

飯田:なるほど、ありがとうございます。
今お話しのあった方法は、すごく正しい方法だなと感じています。Googleの人事制度がどうなっているのか、詳しくは本で勉強していただくのが一番いいと思います。やはり、きちんと基準を作り、かつ複数人の目で運用していくのがポイントですよね。さらに、それを面接だけでなく、実際の場で判断していくのが大事ですね。

高橋:本当に大事ですね。僕なんか会社のみんなに「俺マジで人を見る目ないから止めてくれよ」って言っていますね。本当に外しますから(笑)。

飯田:HRの会社なのに恥ずかしいんですが、私も面接していると、みんなよく思えてしまうんです(笑)。君もあなたもみんないいね、といった感じになるので、これは危険ですよね。

働きがいをもたらす施策

具体的な施策について話していきましょう。様々なことをやっていらっしゃると思うのですが、一つの施策でエンゲージメントが上がることはなく、一つの軸やポリシーに沿って様々なことを実施し、総合評価としてエンゲージメントが上がったり、組織がいい状態になっていったりする形だと思います。

あえて一つ挙げるとして、「この施策のおかげで働きがいのある会社になっている」というものはありますか?

高橋:会社というものは総合格闘技のようなものなので、これはというのは無いですね。良い人材が集まれば集まるだけ、働きがいが上がります。良い採用をするのが、非常に重要だと思っています。そうした考えから、採用8割だとずっと主張しています。

良い採用をするためには、振り切って工夫していく方針です。具体的にいうと、ナイルの採用コンセプトは「事業への本気が集う場所」というコンセプトです。どこよりも挑戦者が集まる場所にすると打ち出していき、そのために社内制度を作っている感じです。
最近発表したものとしては、もし異動希望があった場合、一年以内に必ず実現する制度「フミダス」。他には、ナイルを独立して起業する人全員に出資をコミットする「かどでに出資」という制度を創設しました。

飯田:名前もいいですね。

高橋:ありがとうございます。僕のネーミングです(笑)。そういう向上心や気骨・挑戦心のある人が、「あの会社へ行ったら大きなチャンスが掴める」と思うような制度を作る。それを言葉だけでなく、しっかり運用に繋げていくことが大切です。
人口は日本で減ってきていて、ひたすら売り手市場が加速していきます。そのため、優秀な人材は取り合いになります。その事実を認めて、優秀な人を得るために採用をマーケティングとして認識しなければならない、そうした考え方でやっています。

飯田:ありがとうございます。大澤さんはいかがですか?

大澤:そうですね。僕も「これだ」というのは無いと思っています。本当にいろいろなことをやった結果の積み上がりだと思います。
特徴的な施策でいうと、動画を通じた施策をやっています。弊社の場合はどちらかというとエンゲージメントツールを多用していますが、エンゲージメントツールだけに頼るのも怖いので、定性と定量の両面でしっかり可視化しないといけません。これは施策というより管理に近いかもしれませんが、そこに重きを置いている組織です。

具体的な話ですと、「あいつ前年度すごい成績良かったのに、最近調子悪いな」というのを、相手から相談が来れば誰でも気づけますが、言ってもらわないと気づけない上司もいると思います。そういう些細な変化を、1on1上で調子を確認するデータであったり、ミキワメさんの性格判断といった可視化データを持ち寄ったりして、それを元にメンバーが意思決定していく。「誰がフォローアップするのか?」ということを考えてやっています。

エンゲージメントを上げることが目的ではないのですが、人にすぐに辞めてもらうわけにはいきませんよね。人をケアするコストが、最も高いと思っているので。ですので、問題が起こらないよう事前に体制を築いています。

飯田:以前お話を伺ったこともありますが、「どの社員がどういう状態なのか」「誰がどういうふうにフォローしていくのか」ということを、月に1度、可視化したうえでフォローしていらっしゃるのですよね。アクションのやり残しもゼロで、すごいなと思いました。

採用制度の改善ポイント

飯田:ライブを視聴いただいている方からも、コメントをいただいています。ピックアップしながら残り時間を進めていきます。

まず採用に関する質問です。「採用は大事と言いますが、良いといって採用した人が結局駄目なことがある。そういうことを避けるためには、どうすればいいのか?」。他にも、「採用制度をより良いものにするためには、どういう点がポイントになるか?」という質問をいただいています。いかがでしょうか?

高橋:先ほども言ったように、今の日本は売り手市場です。まずはこれを認識するのが大事です。売り手市場ということは、応募者側にとって、入社という商品が溢れている状態です。つまり、選べる商品が何百万社もあるので、採用したいのであればその中から選ばれる必要があります。ですので、「ウチの会社に入社することのベネフィットは何?」とまず考えなければなりません。

ナイルでは入社するベネフィットをトコトン考えてきました。従業員全員にヒアリングし、「ここに魅力を感じて入社してくれたらしい・在籍してくれているらしい」と言語化して、職種ごとにリスト化しました。また、「ベネフィットが実現できますよ」といくら口で言っても信じてもらえないので、エビデンスにしないといけません。つまり、「こういうベネフィットがあります。実際にこういう制度を作り、ベネフィットをちゃんと証明できています」と、実際に制度化して運用する必要があります。

この考え方を持つだけで、求人票やエージェント経由で御社が紹介されたときに、採りたい人材からの反応率が大きく変わってきます。抜本的な採用力の底上げとなるので、どの会社も取り入れることをおすすめします。

飯田:ありがとうございます。今のお話の中で、ブランディングを明確にし、エビデンスをしっかり出すところが非常に大事だと思いました。5〜10年前であれば、かっこいいキャッチコピーを採用サイトの一番上に載っけておくと、とりあえず人が来てくれるような時代もありました。しかし今はブランディングや、どういう会社なのかを研ぎ澄ますことが大前提となっていて、そのうえでちゃんとそれが証明できている会社なのかがポイントということですね。

採用ページもそうですし、社員との面談やOpenWorkなどを含めて、いろいろな方法で会社情報を探られる時代になってきています。ますます厳しい時代になっていますが、言い方を変えれば、きちんとエビデンスを作ってアピールしていけば勝てるということですね。

高橋:そのとおりです。そういうのを意識的に設定していない会社もたくさんあるので、意識的にやっていると絶対勝つんです。そうした意味では、いかに早く気付き実行に移せるのかが大事だと思います。

飯田:そうですよね。他にも、今の話で大事だなと思った点としては、「自分たちが何者であるか?」をきちんとチョイスすることです。
例えば、コカ・コーラを飲んで健康になると思っている人はそれほど多くはいないと思います。コーラを飲むと若々しく・爽やかな気持ちになると思う人はたくさんいますよね。つまり、自分たちの強みは何なのかという点をしっかり明確にして、そのうえでやりきってエビデンスまで昇華させ、PRしていく。難易度は上がってきていますが、きちんとやりきれば採用も成功しやすくなっていきます。そうした意味では、やりやすい時代になったと言えるかもしれません。

ネガティブな意見を吐く社員へはどう対応すればいいか?

飯田:次の質問です。「ネガティブなことを言う社員が組織の中にいたとき、どうしますか?」
特に会社の施策とか、上司のやろうとしていることに対してネガティブなことを伝えたり、周りの人に陰口を叩いたりなど、そういう人物に悩まされている経営者や人事の方も多いと思います。そういう方が組織の中で出た場合、どうされますか?

大澤:弊社の場合は、そういう事態にならないように行動規範を定めています。「当人に言えないことを裏で言わない」という規範があるので、それを盾にして戦います。
周りに言いふらす行為だけはやめてほしいですよね、何の生産性もないので。シンプルにそう伝えますね。なぜそんなことをするのか?と相手と向き合って話はしますね。それでも変わらなければ、ウチの行動規範に反するので卒業かなと。すごくドラスティックですけど、究極それを思っているので向き合える感じです。

飯田:高橋さんはいかがですか?

高橋:同じですかね。ネガティブなことを言っている理由がリーズナブルな理由で、それをちゃんと提案され、批判され、納得できるなら取り入れます。ただし、それが無根拠で感情からなんとなく言っているだけのネガティブな発言であれば、「言うのやめて」と伝え、それが続くようであれば「一緒にやれないね」という話になります。

飯田:ありがとうございます。芯を持ち、駄目なものは駄目というコミュニケーションが大事ということですね。

1on1の会話内容

飯田:1on1の重要性というところを高橋さんから教えていただきましたが、1on1において、どういうことをメンバーとマネージャーで会話していますか?

高橋:ナイルの場合は、全組織3ヵ月ごとにOKR(目標と成果指標)が設定されます。3ヵ月ごとにみんなが目標を追いかけている状態で、その目標達成に向けて障害になっていることや、迷いを取り除くための助言を与えるのがマネージャーの仕事です。

本人が取り除けない場合、それはマネージャーの責任範囲なので、マネージャーが問題解消に動きます。大前提としてそのような考え方があります。OKRの実現達成に向けて障害を一緒に取り除いていく、そのための相談を受ける・助言を与える場となっているのが1on1です。

仕事の責任は誰がとる?

飯田:なるほど。マネージャーの役割がそういった役割だというのは、前提としてマネージャーに徹底しているのですか?

高橋:それは難しいんですけどね。

飯田:逆に、メンバーの責任はありますか?全部マネージャーに責任があり、メンバーの責任はゼロということでは無いと思うのですが。
メンバーに1on1でやってほしい、果たしてほしいことはありますか?

高橋:全部メンバーの責任ではないでしょうか。全部メンバーの責任でもあり、マネージャーの責任でもあります。ウチで働いている人も20歳超えていい大人なので、そういう人たちが「自分の目標が達成できないのはマネージャーのせいです」と言っていて、しかも相談も議論もしていないのであれば、問題外だと思います。

基本的に、マネージャーはメンバーの課題や障害を解決してくれる人、ただし解決のための指示をくれる人ではなく、あくまで助言する人。自分の考えや力でどうやって解決するのか考えるのが基本です、という考え方です。

飯田:なるほど。メンバーが本気でやり、それでも取り除けないことがあったらマネージャーに出動してもらうことはあるけれど、メンバーの方も本気でできることを全部やっていくと。マネージャーもメンバーが本気で取り組めるように、できることを何でもやっていくのが大事だということですね。ありがとうございます。

本日ナビゲーターとして進行してきましたが、同じ経営者の立場としても、お二人から大変勉強させていただきました。この時間は、『働きがいのある組織の創り方〜「働きがいのある会社」ランキング上位企業と考える〜」』ということで、ナイル株式会社さんから高橋社長、株式会社フラッグシップオーケストラさんから大澤社長にお越しいただきました。

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