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ファブレス企業とは?メリット・デメリットや成功事例を紹介

アップルやユニクロ、任天堂といった有名企業を指して「ファブレス企業」と呼んでいるのを、ニュースや記事で見聞きしたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

国際競争力を高めるために有効といわれている「ファブレス経営モデル」ですが、実際にどのようなものなのか、イメージできていない人も少なくありません。

そこで本記事では、ファブレス企業が何を意味するのか紐解くと共に、ファブレス企業であることのメリット・デメリットを解説します。

ファブレス企業とは

ファブレス企業とは、製造業を営んでいるものの、自社の工場を持たない企業のことです。生産を担う工場のことを英語で「fabrication facility(略してfab)」と表現しますが、「less」が付くことで工場(fab)を持たないという意味になります。

かつて製造業は、自社の工場を持ち、製造から販売までを一貫して行なうのが一般的でしたが、現代において必ずしもそれは当てはまらなくなりました。
自社に工場を用意しない経営手法を「ファブレス経営」と呼び、大企業・中小企業を問わず積極的に取り入れられています。

また、関連する言葉として「ファウンドリ企業」があります。ファウンドリ企業とは、ファブレス企業によって企画・開発した商品の、製造部門を担う企業です。
ファブレス企業が企画・開発した製品の発注を受け、ファウンドリ企業が自社工場で製造し、納品します。

ファウンドリ企業は、製造と品質管理に集中できるため、大量生産しやすく、低コストで質の良い製品を供給できる特徴を持ちます。

OEMやアウトソーシングとの違い

「OEM」とは、自社製品を、他社のブランドとして供給・販売する方法です。自社ブランドを外部委託で製造するファブレス企業とは、違いがあります。

また、「アウトソーシング」は、製造に限らず、企業活動の一部を外部に委託することを指します。ウェブサイト制作やシステム管理、他にもカスタマーサポートなどの業務においてアウトソーシングが活用されています。

ファブレス企業の歴史

ファブレス経営は、アメリカのシリコンバレーにおいて1980年代に誕生した業務形態の一つです。

当時のアメリカでは、工場などの設備費が高騰していました。工場を建てるためには広大な土地と莫大な資金が必要となるため、多くの企業にとって工場建設は実現困難なものでした。
そこで、企画・開発までは自社で行ない、製造部分だけを委託するファブレス経営の業務形態が誕生しました。

ファブレス経営を導入することで、資金調達の必要がなくなるだけでなく、工場を建てるために時間を割く必要もなくなります。
製品のライフサイクルが短い半導体業界に適した経営方法であるファブレス経営は、次第に他の分野でも採用されるようになり、アメリカの経済成長を後押しするビジネスモデルとして認識されていきました。

この時、日本の半導体メーカーでは、電気通信機器等の親会社が激しい競争に直面していました。その結果、半導体の製造部門だけを切り離せず、時代の流れに乗り遅れてしまった経緯があります。

参考:半導体・デジタル産業戦略 令和3年6月 経済産業省

ファブレス企業にしやすい業界・業種

ファブレス経営は、設計と製造を分けることで効率化可能な業界や業種で多く採用されているビジネスモデルです。
特に以下のような業界・業種は、ファブレス企業として活動しやすいものと認識されています。

  • 半導体メーカー
  • デジタル機器メーカー
  • 飲料メーカー
  • インテリアメーカー

それぞれ詳しく解説していきます。

半導体メーカー

半導体業界は製品サイクルが短く、数ヵ月経つとすぐに新しい製品が投入されるシビアな業界です。

半導体メーカーの抱える課題が発端となり、アメリカのシリコンバレーで誕生したのがファブレス経営でした。
設備投資を最低限に抑え、柔軟に市場の変化へ対応できるビジネスモデルとして、ファブレス経営は半導体業界に適した経営スタイルといえるでしょう。

デジタル機器メーカー

デジタル機器メーカーも、製品サイクルの短い業種の一つです。

半年で新商品が市場に入ってくる業種であるため、新しい製品を効率よく生産できるようにスピード感を持って企画・開発を行なう必要があります。そうした背景から、製造部分を外注する企業も数多く存在します。

飲料メーカー

飲料品メーカーも、古くからファブレス経営が浸透している業種です。例えば「ダイドードリンコ」は、創業以来のファブレス企業として知られています。

ダイドードリンコでは、商品の製造を提携工場に委託しているだけでなく、商品の配送自体も他社へ業務委託しています。委託できる部分を可能な限りアウトソーシングした結果、商品企画や開発に注力できるようになり、人気飲料商品を多数生み出すことに成功しました。

インテリアメーカー

多種多様なインテリアを企画し、生産するインテリアメーカーでは、製品デザインの変更に伴い、工場の製造ラインを頻繁に修正する必要があります。自社工場だけで生産を担っていると、設備投資や変更に多大なコストがかかるため、リスクの高い事業となってしまうでしょう。

そのような背景から、製造は物価や人件費の安い海外の工場へ外注するファブレス経営が浸透しています。

ファブレス企業のメリット

世界のリーディングカンパニーも採用しているファブレス経営には、どのようなメリットが存在するのでしょうか。

ここからは、ファブレス企業となることで得られるメリットを4つご紹介します。

メリット1:初期投資を抑えられる

ファブレス企業では、自社で工場を持つ必要がないため、資金が少ない場合でも、得意分野である商品企画や開発に注力可能です。

自社工場を持たないファブレス企業では、マーケティングや販売に集中することで、さらに企業としての成長が期待できます。
最近では、中小メーカーやベンチャー企業がファブレス経営を導入することで、市場での存在感を際立たせるケースが増加しています。

メリット2:製造費を抑えられる

製造を他社へ委託できれば、コストを大幅に削減できます。特に、生産スピードや製造能力に長けたメーカーに委託すれば、コストを抑えながら高品質な商品を生み出せるでしょう。

また、複数の委託先に分散することで、納期短縮や生産量の調整を図ることも可能です。

メリット3:資金を開発に集中できる

ファブレス経営では、工場の従業員を確保する必要がないため、人材確保や資金調達を最低限に抑えられます。

企画と開発を担う最低限の人員さえいれば、すぐに事業をスタートできるのは大きなメリットといえるでしょう。
企業競争力の原点ともいえる研究開発分野に資金を集中できれば、開発力やブランド力で他社との差別化が図れ、自社の事業を軌道に乗せやすい状況を作り出せます。

メリット4:市場変化に柔軟に対応できる

ファブレス企業は自社で工場を持たないため、事業規模の拡大や縮小、生産量の調整などがスピーディに実施可能です。

自社製品の需要が市場で激減した場合においても、低コストで撤退できます。
グローバル化が進み、市場動向に迅速に対応する力が求められている現状において、機動力に長けているファブレス経営の導入は検討価値が高いものといえるでしょう。

ファブレス企業のデメリット

メリットが多い一方で、ファブレス経営を採用することで発生するデメリットも数点存在します。

デメリット1:生産管理・品実管理がしにくい

製造を他社に委託するファブレス経営では、委託先の工場に目が届かず、品質が保たれないリスクがあります。

特に製造を1社へ大量委託するケースでは、事前に入念な生産・品質管理体制を構築する必要があるでしょう。
頻繁なチェックだけでなく、信頼できる確かな委託先を選ぶことも、ファブレス企業として成功するための大きな要素といえます。

デメリット2:機密漏洩のリスクがある

ファブレス経営では、委託先で自社情報の漏洩リスクが生じます。

企画・設計された製品は、自社のノウハウとテクノロジーによって開発されたものです。しかし、製造を委託することで、情報漏洩や類似品の製造などのリスクを考慮しなければなりません。

万が一漏洩等してしまった時のことを考えて、セキュリティ対策の徹底や、守秘義務契約などをはじめとする責任の追及や対処法について、あらかじめ委託先と協議しておきましょう。

デメリット3:製造過程のノウハウが得られない

モノづくりの基本である「製造」を外部へ任せることから、製造に関するノウハウを得られないデメリットがあります。

製造過程のノウハウから新製品の開発に繋がることもあるため、得られるはずだった有益な知見を逃してしまう可能性も存在します。

ファブレス経営が成功している企業

ここからは、代表的なファブレス企業を2社紹介します。今回取り上げた任天堂とキーエンスの2社は、東洋経済による「東洋経済財務力ランキング(2020年9月1日時点)」にて、それぞれ1位、5位にランクインしています。

任天堂

日本を代表するゲーム、おもちゃメーカーである任天堂は、国内でも成功が知られているファブレス企業です。

おもちゃは製品としてのサイクルが短く、ブームで一時的に需要が増えた場合でも、すぐに人気を失うシビアな業界です。
任天堂では、大量の在庫を抱えるリスクを回避するためにも、ファブレス経営の採用により、人員調整や生産管理を実施しています。

実際に、売り上げの9割以上を占めるコンピュータゲーム関連は完全に外部委託であり、自社では修理や検査業務を行なうことにとどめています。

キーエンス

日本の測定機器メーカーである「キーエンス」は、高い企画力で世界的にも認知されている企業です。

ファブレス経営により、企画や開発に十分な時間を割いていることが、高収益を生み出す要因の一つといわれています。
また、キーエンスでは営業や販売を自社で直接行なっているため、製品の問題点をすぐに把握できる特徴を持ちます。製品を効率的に改良できる体制だからこそ、消費者のニーズに合った製品が生まれやすく、高いシェアを実現できているのでしょう。

ファブレス企業を目指そう

ファブレス企業とは、製造を外部に委託することで、設備投資費や工場の人件費などをかけずに企画と開発に注力できる企業形態です。

初期投資を抑えながらスピーディーに事業を進めていきたい会社は、ぜひ一度ファブレス経営の導入を検討してみてください。


参考:

「上場企業財務力ランキング」最新トップ300社 | 企業ランキング | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
半導体・デジタル産業戦略

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