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エンパワーメントとは?ビジネスでのメリット・デメリットと導入方法を紹介

多様化するビジネス環境への対応力を高めるため、近年注目されているのが、権限の委譲を意味する「エンパワーメント」の導入です。
この記事では、これからの時代に必須とされるエンパワーメントについて、その意味や導入のメリット・デメリット、導入時の注意点について紹介します。

エンパワーメントとは

エンパワーメントは、ビジネスの場面においては主に「権限移譲」を意味します。
いくつかの意味合いを持っている言葉ですが、共通するのは「潜在能力を呼び覚ます」ことです。

ここでは主に、ビジネスにおいてのエンパワーメントの意味や、導入のメリットについてご紹介します。

ビジネスでのエンパワーメント

ビジネスにおけるエンパワーメントとは、「権限移譲」「能力開花」と言う意味で用いられ、個人や集団の潜在能力を能動的に発揮させることを指します。
業務の遂行や意思決定の権限を、中枢機関から現場へ、上司から部下へと委譲させるのがエンパワーメントです。

もともとは市民運動や教育・福祉などの分野で使われていた言葉ですが、現在は企業や組織において注目の考え方として浸透しています。

エンパワーメントの始まり

エンパワーメントは、20世紀のアメリカにおいて使われるようになった言葉です。組織を構成する個人が、市民運動などにおいて改革や発展に寄与する能力を身につけることを、エンパワーメントと呼んでいました。

その後、教育や福祉の分野などで普及が進み、最近ではビジネスの現場において、企業の競争力を持続的に高める手法として注目されるようになりました。

さまざま分野でのエンパワーメント

エンパワーメントは、ビジネス以外での分野でも普及が進んでいます。ここからは、分野別のエンパワーメントについて解説していきます。

教育分野でのエンパワーメント

教育分野でのエンパワーメントは、子供に何かを教えるのではなく、「本来子供が持っている力」を引き出す取り組みを意味します。

工作を例にとると、最初からうまくいくやり方を手取り足取り教えてしまっては、自分自身で試行錯誤し問題解決する機会を奪ってしまいます。
口を出さずに子供の作業を見守り、自力でゴールを発見できるような教育を提供するのが、エンパワーメントのアプローチです。

文部科学省の「学習指導要領」では、「予測不可能な時代の中でも、自ら考え行動し、幸福な未来を掴むために生きる力を伸ばす教育」の実現を目標に定めています。この教育への考え方こそが、まさしくエンパワーメントといえるでしょう。

市民運動・女性運動・国際開発分野でのエンパワーメント

社会福祉分野においてエンパワーメントが持つ意味合いは、「社会的弱者や差別されている人が、その状況を自ら変えられるようサポートすること」です。
ほかにも、受益者に渡す補助金を増やし、使い道を選択する権利を与え、政府の介入や裁量を減らす考え方や方法を指すこともあります。

看護・介護・福祉分野でのエンパワーメント

看護・介護・福祉領域のエンパワーメントは、サービスを利用する患者や障がい者の自立がゴールです。
サービス利用者が、自己選択や決定を繰り返し、生活と環境をコントロールする力を身につけられるよう支援します。

例えば、生活習慣病を抱えている患者の場合、いくら周りがサポートしても、自ら生活環境を変えようと努力しなければ健康に近づくことはできません。
「本人の健康を阻害する原因は本人の中にもある」と考え、見守りながらサポートしていくのが看護におけるエンパワーメントです。

エンパワーメントのメリット

企業において、エンパワーメントを導入することによって得られるメリットには、次のようなものが考えられます。

  • スピーディな意思決定
  • モチベーションの向上
  • 顧客満足度の向上

それぞれ詳しく解説していきます。

メリット1:スピーディな意思決定

従業員はエンパワーメントによって、自らに与えられた権限の範囲内で意思決定できます。
トラブルが起きても、上司からの指示を待つことなく対応できるため、業務スピードは上がり、生産性の向上が期待できるでしょう。

メリット2:モチベーションの向上

上司に指示を仰ぎ、従うだけの働き方は、エンパワーメントの導入によって大きく変化します。

自らの意思決定で行動し、結果を導き出す労働スタイルは、従業員に主体性をもたらします。
自己判断で取り組んだ業務が成功につながれば、成功体験が蓄積され、仕事へのモチベーションアップも期待できるでしょう。

また、さまざまな権限を与えられることで結果への責任感が育ち、仕事の目的や理由を自分で考え、判断する力が身につきます。

モチベーション向上については、以下の記事で詳しく解説しています。合わせてご覧ください。

メリット3:顧客満足度の向上

従業員が一定の権限を持つようになれば、顧客に対して柔軟な対応が可能になります。
トラブルやクレームが発生した場合でも、現場で迅速に的確な対応ができれば、顧客満足度の向上やリピーターの確保にもつながるでしょう。

エンパワーメントのデメリット

エンパワーメントには多くのメリットが存在するものの、デメリットも同時に存在します。ここからは、エンパワーメントの導入前に覚えておきたい主なデメリットを紹介していきます。

デメリット1:サービスレベルの差ができる

エンパワーメントを推し進め、従業員それぞれの判断による行動が増えると、従業員のサービスレベルにばらつきが生じる可能性があります。
また、与えられた権限に従業員のスキルが追いついていない場合、ミスや損失が発生するリスクも高まるでしょう。

特に顧客との関わりが密接なサービス部門では、ばらつきのあるサービス内容を提供してしまうと、顧客満足度の低下を引き起こしてしまいます。
均一なサービスを提供するためには、従業員への定期的な研修の実施、またはノウハウや考え方の共有を企業が意識して提供する必要があります。

デメリット2:組織としての管理が難しくなる

権限を部下に委譲すると、部下の管理や組織の統制が困難になる場合があります。
部下にも裁量権が与えられているため、自己判断で事業を進めているケースもあるでしょう。結果、上司の知らないうちにトラブルが生じ、報告がないまま深刻化していく可能性も考えられます。

また、自分で判断し行動することを推進した結果、経営方針と異なるアクションをとる従業員が出てくる可能性もあるでしょう。
統一感のない労働スタイルは顧客や株主の満足度を低下させ、顧客・株主離れを引き起こす恐れがあります。

組織管理に支障をきたさないためにも、最初から大幅な権限移譲は行わず、小規模実施で様子を見ながら徐々にエンパワーメントを拡大させるのが賢明です。

デメリット3:エンパワーメントに向いていない従業員もいる

すべての従業員が、エンパワーメントによってモチベーションが上がるわけではありません。
指示を受けて働くことで高いパフォーマンスを発揮する職人型の人材にとっては、エンパワーメントによって逆にモチベーションやパフォーマンスが低下する可能性も考えられるでしょう。

エンパワーメントを実施する場合には、対象とする人材の見極めや、段階的な導入の検討がおすすめです。

エンパワーメントの導入ステップ

エンパワーメントは、どのような手順で導入するのが理想的といえるでしょうか。
ここでは、企業がエンパワーメントを導入する際の流れを紹介します。

導入ステップ1:エンパワーメント推進を社員へ告知する

最初のステップは、組織のリーダーが従業員の前でエンパワーメントの推進を告知することです。
単なる周知で終わることがないように、固い意志と熱意が伝わるような形でエンパワーメント導入を宣言します。

宣言に併せて「なぜエンパワーメントの導入が必要か」「どのようなメリットが期待できるか」「従業員にどのような影響があるのか」などを説明できるとよいでしょう。

導入ステップ2:目的や目標を共有し、合意と共感を得る

エンパワーメント推進の旨を社員へ伝えた後は、組織管理者と従業員の間で、目的・目標への合意形成を図ります。

「エンパワーメントを導入します」と伝えただけでは、従業員はアクションを起こせません。導入に関するディスカッションや勉強会の開催を通じて、エンパワーメントへの理解を深めるプロセスが必要です。

ディスカッションや勉強会では、エンパワーメントの導入事例を共有するとよいでしょう。エンパワーメントの導入によるメリットを従業員がイメージできれば、推進活動へ意欲的に参加してくれる可能性も高まります。

導入ステップ3:情報公開を進める

目的や目標の合意を得られた後は、エンパワーメントの導入に向けた活動をスタートします。具体的には、企業経営に関わる情報公開と権限の移譲です。

いきなり「これから社員へ権限を与えます」と権限の移譲を試みても、うまくいきません。与えられた権限に萎縮したり、企業の経営方針から外れたアクションを起こしたりする可能性があるでしょう。
権限委譲の前に企業の経営方針や戦略を社員が把握しておけば、権限を与えられた社員たちの行動にばらつきが生じにくくなります。また、従来は経営層にしか開示されていなかった企業情報を共有することで、「社員を信頼している」という意思を社員へ示すことが可能です。

導入ステップ4:権限の移譲

適切な情報開示が完了したあとは、いよいよ権限の移譲です。

社員へ権限を移譲する際には、「権限の範囲」を明確に設定するよう心がけてください。意思決定できる範囲を伝えておけば、社員が誤った行動に走るリスクを防げます。
権限の内容や範囲は、社員の能力や資質に応じて調整していくとよいでしょう。

エンパワーメント導入時の注意点

エンパワーメントの導入が不適切だった場合、かえって従業員のパフォーマンスが低下する可能性があります。
ここからは、どのような点に注意してエンパワーメントを導入すべきかチェックしていきましょう。

注意点1:従業員へ責任を丸投げしない

エンパワーメントの誤った認識により、権限とともに責任を従業員へ押しつけるケースがあります。
権限を与えたからといって、責任の所在が変わるわけではありません。部下の取った行動によってトラブルや損害が発生した場合、管理職である上司が責任をとるのが一般的です。

責任までも上司が部下に丸投げするのは、エンパワーメントの考え方とは異なります。

注意点2:管理側がエンパワーメント推進に消極的

エンパワーメントの導入に賛成していた経営者や管理者が、権限を移譲するタイミングで不安やためらいを抱くケースも少なくありません。
「自分で意思決定したほうが楽だ」と考え、権限委譲したはずの部分に口を出すようになると、エンパワーメントが機能しなくなり形式上のものと化してしまうでしょう。

導入前の研修や勉強会だけでなく、導入後も定期的なエンパワーメント教育の実施を心がけましょう。

注意点3:部下の萎縮

大きな権限を与えはしたものの、部下がその責任に委縮してしまうと、苦労してエンパワーメントを導入しても効果が得られません。

エンパワーメント導入の際には、誰に権限を与えれば高いパフォーマンスを発揮するのか見極める必要があります。

失敗を認める環境づくり

エンパワーメントでは、自己判断で行動するため失敗がつきものです。従業員が委縮しないよう、試行錯誤できる環境づくりが必要となります。

具体的な手段としては、上司が部下の致命的なエラーをフォローできる仕組みづくりや、チャレンジや失敗を奨励できる環境の構築です。
エンパワーメントが定着してきたら、根本的な組織風土の改革にも目を向けてみましょう。

まとめ

ビジネスにおけるエンパワーメントとは、業務の遂行や意思決定の権限を、中枢機関から現場へ、上司から部下へと委譲させることを意味します。

エンパワーメントを自社に導入すれば、社員の意思決定スピードが高まり、マネジメントスキルの向上が期待できるでしょう。
ただし、社内への説明が不十分なまま導入を試みても、エンパワーメントが形式上のものとなり、社内に浸透していかない可能性があります。導入前の研修や勉強会に加え、導入後の定期的なエンパワーメント教育の徹底が大切です。

適切な方法でエンパワーメントを導入し、自社の成長に役立てていきましょう。

参考:
学習指導要領「生きる力」|文部科学省

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