講演レポート

「変わり続ける組織を実現する採用と客観的なデータの活用」

2023年3月20日、株式会社リーディングマークによって開催された「みんなのHR博覧会 by ミキワメ」において、株式会社人材研究所の曽和利光氏と株式会社リーディングマークの佐藤映が、「変わり続ける組織を実現する採用と客観的なデータの活用」と題して講演しました。講演要旨は次のとおりです。

曽和氏、佐藤氏の自己紹介

曽和:人事コンサルティング会社である人材研究所の代表の曽和です。30年ぐらいこの業界にいて、40歳ぐらいまではずっと人事の実務家をやってました。リクルート、ライフネット生命、オープンハウスの人事や採用の責任者をして、現在では様々な企業へコンサルティングを提供しています。

佐藤:司会は、株式会社リーディングマークの佐藤です。組織心理研究所というところで、R&Dのポジションでお仕事をしています。

組織の変化に対応する人材マネジメント

佐藤:組織の変化や成長には様々なフェーズがあり、それに対してどのように人材の運用や採用をしていけばいいのか、具体的なイメージが沸きにくい状況があります。今回は、そのあたりの話をぜひ曽和さんに伺いたいと思います。

曽和:組織の変化は、成長期と停滞期の2つのフェーズに分けられると思います。成長期では、現場の積み上げを基に要員計画を立てていくことが多く、一つのことを突き詰めていきます。一方、停滞期に入ると変革が必要とされ、それに合わせて経営幹部やスーパージェネラリストのような人材が必要となってくるんです。

このような変化に対応するためには、組織と事業を合わせることが大切です。例えば、成長期と変革期では、要員計画が変化します。成長期だと現場からの積み上げで計算していけますが、変革期では未来への意志を重視する必要があります。

変革期では何が起こるかわからないため、求める人物像もスペシャリストからスーパージェネラリストに変わります。そのため、職種別採用からポテンシャル採用に切り替わることが多く、将来的に経営幹部になってくれるスーパージェネラリストを採用する傾向にあります。しかし、求める人物像が曖昧であるため、採用に関しては決め手が少なく、難易度が高くなってしまいます。

また、育成配置においては、成長期では自律的キャリア開発が重視される傾向があります。

能力等級に加えて行動評価で等級を決定し、計画的な育成が行われます。一方、変革期においては、どの能力を発揮してほしいのかが分からないため、役割等級やミッショングレートで等級を作り、結果で評価される傾向にあります。

成長期と変革期に求められる人材像

曽和:キャリア志向の強い人は、変革期にフィットしにくい傾向があります。一方、成長期では、専門性を発揮することが最大の効率化をもたらすため、スペシャリストが求められます。

ただし、常に成長期であったり変革期であったりするわけではないため、求められる人材のタイプは時期によって変化します。現実にはその境界線が明確でないことが多く、それぞれの状況に応じて適切にバランスをとっていく必要があります。理論的に考えることは大事ですが、現実の制約条件に合わせてフレキシブルに対応することが求められます。

また、成長期から変革期に移る際、人材マネジメントを変え、新しい人材を採用・育成する必要があります。しかし、自分に似た人を採用するケースも多いため、新たなフェーズに必要な人材を見つけるのは困難です。加えて、日本の国民性からドラスティックな人材交代は難しいため、人間を替えるのではなく人の頭の中を変える必要があります。

離職者と新しく入社してくる人材の循環について

佐藤:変革期に差しかかった時、一定の離職者が出てくるケースもあると思います。離れていく方々や新しく入ってくる方々の循環についてはどのようにお考えでしょうか?

曽和:理想は先ほど言ったように、頭の中を変えてもらい、次のフェーズに必要な人材マネジメントに適応する人材に社員がなってくれることです。ただし、無理やり次のフェーズに適応させようとすると、離職してしまう人も出てくるかもしれません。そこで考えるべきことが、定着と離職のマネジメントです。

理想の退職率をまず設定するのがスタートです。人を採用するのは、ある意味投資といえます。投資として人を採用する場合、その人が適正利潤を獲得するまでの年数を計算し、理想の退職率を定めてモニタリングすることが重要です。例えば、10年で適正利潤を獲得する場合、ざっくりとですが理想の離職率は10%になります。こうして定めた離職率に基づき、辞めすぎてしまいそうな場合には求心施策を打って人材を繋ぎ留めます。

逆に辞める割合が少なすぎる場合は、遠心力施策をかけます。これは難しいですよね。退職金制度を変えたりキャリア研修をやってみたりと、色々な方法があります。

企業は理想的な退職率を設定し、求心力と遠心力の施策をバランスよく実行する必要があります。モニタリングしながら次のフェーズに適合する人材へ求心力施策をかけ、そうでない人材へ遠心力施策を段階的に実施していきます。このような方法を実行することで、企業はドラスティックな手法を用いずに必要な人材や組織を作り上げることが可能です。

適切な対象へ求心力施策、遠心力施策をかけるポイント

佐藤:求心力施策をかける対象、遠心力施策をかける対象を見極めるポイントは何でしょうか? 

曽和:解像度高く見るためには、客観的なデータやパーソナリティテストを活用して、細部までチェックする必要があります。パーソナリティを解像度高く見ないと、施策が滑る可能性があるんです。

例えば、競争心が低い人を残そうとしているのに、実力主義的な人事制度を導入したり、社会の流行に乗った施策を実施したりしてしまうと、逆効果になります。求心力施策、遠心力施策はどちらも影響が大きいものなので、間違った対象者へ実施しないよう注意が必要です。

人事と事業部内で共通認識を持つために工夫できること

佐藤:人事と事業部内で共通認識を持つために工夫できることはありますか?

曽和:データをベースにすることが重要です。感覚勝負だと現場の偉い人や経営者のほうが優れているので、人事だから分かること、客観的なデータなどを提示します。人事のプロとして現場の人に見方を教えながら「現場のリーダーとしてこう見てるかもしれませんが、こうした結果が出ています」といったようにサポートしていくと、現場と人事の良い関係が築けます。

施策結果の検証方法

佐藤:施策の効果はどう検証していけばいいでしょうか?

曽和:明確な指標は退職率です。採用数や昇格数、退職率といったように色々な指標がありますが、この中で一番コントロールの難しいのが退職率です。理想の退職率をモニタリングして上がり下がりをチェックし、判断するのが一番だと思います。

また、パーソナリティで社員を分類し、それぞれのパーソナリティごとに退職や滞在、昇進・昇格のデータを解像度高く見ていくことも重要です。

締めのメッセージ

曽和:人事の場合、とにかく人材を残そうとする善意の気持ちが働きますよね。理解できますが、そうした人事の善意が組織の停滞や必要な人材の離脱を招くことがあります。

遠心力施策を適切に行い、適正な離職を推進することが、長期的な組織の健全性に繋がります。人事の世界で離職はタブー視されがちなものですが、中長期的に組織のために必要な新陳代謝を行う必要があります。そこを見据えた取り組みが今後の人事には求められるのではないでしょうか。

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