コンサルティングの仕事は、
何が本当の価値かを徹底して考えることです。

TOP写真

Profile

西川覚也
A.T. カーニー
プリンシパル

特許事務所でまず広い世界を見てみようと思った。

西川さんは東京大学を卒業されてまず特許事務所に入所されたと伺っています。その経緯からお教えください。

東大工学部でデジタルコンテンツの暗号化などの研究を行っていました。当時は大学院を卒業してトヨタやホンダなどの大企業に行くのが私たちの周りにおけるひとつの主流でした。私は、早く社会に出たかったという思いがひとつあります。それと、技術がどういう過程を経て市場に出ていき、世の中を変えていくのかイメージできなかったのです。わからないので不安だし、選べなかったというのもあります。もっと広い世界を見てみたかった。それで、ベンチャーにいくという選択肢もあったのですが、当時は知的財産という考え方が広がっていった時代です。先端技術を研究している人に実際に会って、自分は何をやっていくべきか考えてみようと思いました。特許事務所というところは、いろいろな研究室に出入りできるのです。私は年間100人、2年間で200人の技術者にお会いました。

当時の西川さんの役割とはどのようなものだったのでしょう。

リエゾンと呼ばれるもので、簡単にいうと知財の専門家が発明を発掘し、権利化する活動のこと。知財の権利を主張する人の中で誰が早いのか、何が違うのか、ヒアリングしていくプロセスがあります。他者の先行論文などと比較してその進歩性を議論しながら抽出していく。私を指名してくれる方は、ほとんどこのリエゾンを要求してきました。特許事務所はコンサルティングファームより厳しい面があり、1年で社員が3分の1しか残らない。技術に対する理解力、文章力、コミュニケーション能力、法律など、幅広い能力が求められます。

厳しい世界ですね。

ものすごく早く、それなりの深さでその技術領域を理解する必要があります。例えば明日、自動運転の工学センサーのソフトウェアについての特許を出したいという人に会うとしたら、工学技術の相関分析に関する専門書を3冊ほど読んで理解を深め、他社からどのような技術が出ているかを調べるということを繰り返していきます。1年経過したら、事務所で1番売上を立てる人間になっていました。

それほどの成果を上げていて、なぜ、経営コンサルタントに転職されたのですか。

特許戦略からR&D戦略に自分のできる範囲を変えたいと思ったのです。結局、R&D戦略は、何を研究するのか、その本質的な価値が大事。替わりのない独自の技術を見極めて、そこに向かって仕事のできる人が大切です。

A.T. カーニーに入社する決め手となった要素はどんなものでしたか。

他の戦略ファームも受けたのですが、仕事のプロセスはどこも似ていました。やはり決め手は人です。自分の抱えている問題意識を話して通じる人がいるかどうかが基準でした。

A.T. カーニーの特長はどんな点にあるのでしょう。

お客様の会社に常駐するスタイルをとることが多いこと。私が入社して最初に携わった案件は、ある技術を持っているのですが、それまで売っていたフィールドだけでは成長限界があり、今後どこで売るべきかという課題を抱えていました。製品の競争力はどこにあるのか、ターゲットに対してどういう訴求ポイントを出していけばいいのかを、繰り返し提案するわけです。そういう状況でお客様の会社と自社を行ったり来たりでは効率が悪い。工場のオペレーション改革もやりましたが、そういうケースでもべったりお客様のもとに張り付いていた方が効率がいいのです。本当に組織を動かすためには中にいて、信頼関係をつくっていく必要があります。それだけの深さで徹底してコンサルティングする。それがA.T. カーニーのポジションニングです。

リーマンショックで感じた資本主義の限界。

コンサルティングの難しさとは、どんなところにありますか。

お客様がなぜコンサルティングを必要とするのか、という原点に戻ると思います。例えば自動運転が流行っている。それを実現する技術があります。しかし、技術的にその方法論が合っているのかわからない。売上が上がったとしても、開発投資が回収できるかわからない。競争に勝たなければ、事業を継続することができない。こういった複雑な悩みをお客様は抱えているわけです。その悩みに対して、「現時点でのスナップショットではこちらの方向にいくべきだと思います。それはこういったいくつかの現状把握から導き出しました」と提言するのがコンサルティングです。ところが、実際にはその戦略に沿うだけでは事業がうまくいかない。十数年やって、私が当時のプロジェクトで提言したことをそのままやって成功したという例はゼロです。事業の成功にはお客様自身が状況に合わせて日々戦略を修正していく作業を延々と繰り返す必要があるわけです。それにもかかわらず、プロジェクト後時間が経ってからお客様お会いすると感謝してくれている人がいる。1000億円のビジネスに成長することができましたという方がいるんですよね。そういった経験を踏まえると、コンサルティングファームの仕事は、目先の提言だけではなくお客様にとって何が本当の価値なのかを考えその本質を提供することです。それを計るひとつのバロメーターが、1年後、2年後にお客様のところに自信を持って会いにいけるかだと思います。

2010年に一旦A.T. カーニーを辞められています。

リーマンショックが2008年に起きて、日本にも大きな影響が出ました。その時、資本主義より社会主義の方がいいんじゃないかと思ったのです。資本主義社会では需要に対して供給を伸ばすと利益が出ます。それが回っている間はいいけど、あるときそれがオーバーシュートする。結局、工場はリストラをせざるを得ない。それって、幸せなことなのか。 当時、リーマンショックの影響が全くなかった国のひとつがオーストラリアでした。 日本のような加工貿易国で生まれるのと、オーストラリアのような資源国で生まれるのでは、違うビジネスモデルで生きていかなくてはならない。これがリーマンショックの生産変動におけるある種の不幸、リストラっていう形で顕在化した。これが正しいのかというのを別の視点から見てみたかったのです。そのため、オーストラリアに居を移してみることにしました。

素晴らしい慧眼をお持ちの西川さんですが、その目にはどんな未来が写っているのでしょう。

コンピュータが及ぼした影響は、企業でいうとまず会計。経理の人数が相当数減少して、それにもかかわらずERP(※会計、人事、生産、販売など経営資源の統合管理システム)という情報システムによって、ものすごくタイムリーに情報を出せるようになりました。法人における経済活動を最適化するという意味において150兆円くらいのマーケットを形成しています。次はどの業界の改革が始まるでしょう?工場はもう改善余地がない。まだ、効率化されてないところは農業、漁業、資源系だとオイル&ガスなどあります。そうした分野の効率化は、本質的に何がドライバーになっているかというと、コストが下がることです。CFO、CTOなどがこれをやらないと首が飛ぶという状況になっている。海運が今そういう状況です。タンカーってとんでもない数あるんですが、ほとんど動いていないし、値段が100分の1に下がっている。こういうマーケットは、確実に再編が起こらなければならない。半導体や液晶で起きたこと、あるいはプリウスのような革新的な低燃費ということが、海運でもすでに起きています。本格的に始まるのはこれからでしょう。

最後に、就活生の皆さんにメッセージがあればお願いします。

なぜ、コンサルタントになりたいのか。それを明確にする必要があると思います。投資銀行もベンチャーも証券会社も受けて、何でもやりたいというのではなく、自分の問題意識をしっかり持つこと。比較することはいいことです。理系だったら、学校推薦など積極的に利用した方がいい。私も、3年生の時に日立の工場に行きました。新幹線の横で電車を走らせて止まり方のプログラムを書いて、とてもいい経験になりました。比較もせずに、きらびやかだから、給料が高いからという理由でコンサルティング会社に入っても長く勤められないでしょう。何をしたいのか?本当にそれでいいのか?なぜ、コンサルタントなのか?しっかり自問してほしいですね。