講演レポート

「臨床心理士が語る『職場のウェルビーイングの実現に向けて』」

2022年9月28日・29日に株式会社リーディングマークが開催した「ウェルビーイングリーダーズサミット」において、株式会社人材研究所 代表取締役社長 曽和利光氏と株式会社リーディングマーク 組織心理研究所 所長の佐藤映氏が、「臨床心理士が語る『職場のウェルビーイングの実現に向けて』」と題して講演しました。講演内では、ウェルビーイング(持続的な幸福状態)についての概要を説明した後、社内でウェルビーイングな状態を作るための具体的な施策として、サーベイを紹介しました。しかし、サーベイは安易に実施すると形骸化してしまうリスクがあることを踏まえ、サーベイ実施上の注意点や意識したほうがよいことについて解説しました。 

サーベイ_種類_メリット_デメリット
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組織サーベイの効果に対する8つの勘違い

『サーベイフィードバック入門』という本があります。ものすごくおすすめの本です。この本でサーベイへの勘違いがいくつか紹介されており、大変意義があるのでここでも紹介したいと思います。

1つ目は、「サーベイをすれば現実は変わる」という点。当然、やるだけでは何も変わりません。サーベイはあくまで測定・見える化なので、アクションや打ち手の部分が重要になってきます。データを活用して何をするのかを設計する必要があるのです。

2つ目は、「項目が多すぎて処理しきれない」という点。社内の様々な傾向が気になるということで、満足度やメンタルなど、とりあえず多岐にわたる傾向を測定した結果、どのデータが大事なのかわからなくなってしまう状態です。

3つ目の「データがつながっていない」という点は、アンケート疲れのような感じですね。 たくさんのデータを測定してみたはいいものの、測定することで疲れてしまい、どのデータを何に使うのかが整理できていない状態も起こりがちです。

4つ目は「サーベイに正解を求めてしまう」といった勘違いです。サーベイ自体はあくまでも「ものさし」の役割ですが、測定するだけで対応についての正解がわかるものではありません。結果を元に社内で対話し、方向性を定めていく必要があるでしょう。

5つ目は「サーベイ結果を放置してしまう」という点、これもよくありません。結果に対して何らかの改善施策やアクションを打つことが大切で、具体的な行動になる前段階の「リアクション」だけでも意味があります。やりっぱなしだと、サーベイに真剣に答えても、結果が何にも活かされていないと従業員が感じ、学習性無力感(「やっても変わらないんだ」という無力感を学習してしまい、次に同じことをやってくれなくなる)を与えてしまいます。そうすると、そのあとのサーベイのハードルが高くなってしまうのです。

続いて6つ目、「データをむやみにとりすぎる」という問題。単純にデータばかりとってしまい、フィードバックの時間が確保できていない状態も珍しくありません。

また、7つ目、「サーベイは1回やればOK」というのも間違いです。「組織の慣性」というものがあり、瞬間的に変わっても、また元に戻ってしまいます。定期的に診断して、持続的に改善計画を立てて実行することが大切です。

最後が「数字ばかり気にしすぎてしまう」という点。何か数字が出てきたときは「なぜこの部署は数値が低いのだろうか」「なぜ前回と比べて数値が落ちてしまったのか」といったWhyの部分を徹底的に探ることが大切です。

組織サーベイ_メリット_活用手順
組織サーベイとは?導入するメリットと活用手順を5ステップで解説組織サーベイとは、社員の満足度やコンディションを把握するための調査です。組織と社員との意識差の把握や企業理念の浸透度合いを測定できます。本記事では導入するメリットや活用手順を解説しています。...

よくある組織サーベイ 対応上の課題

  • 1.正直に回答してくれない
  • 2.数値向上が目的化してしまう
  • 3.結果にどう対応してよいかわからない
  • 4.マネージャーが疲弊してしまう

1の「正直に回答してくれない」というのは、そもそも本音を伝えるのが難しかったり、現場の意見をすくい取るのが難しい状態といえます。心理的安全性の担保と書いているように、回答者が「どう回答しても批判・非難されない、不利な立場におかれない」と実感できる関係性を事前に作っておくことが重要です。

2の「数値向上が目的化してしまう」というのも、よくあることです。ウェルビーイングの状態というのは、目指すと遠のいてしまうというジレンマがあります。幸せな状態を目指そうとすると、幸せのハードルが上がってしまうのです。ウェルビーイングや従業員の充実感のスコアを、KPIやマネージャーの評価基準にしてしまうと、本質的な改善よりも数値向上が目的になってしまいます。そうすると、サーベイが形骸化してしまうので注意が必要です。

3の「結果にどう対応してよいかわからない」については、まずサーベイ結果を評価項目にしないことを意識してください。「やる気が出ない」「負担が大きくて疲れている」といった気持ちは、誰にでも起こりうる心理状態です。スコアの低下は誰にでも起こる心理で、生じてしまった場合は改善しようという認識をつくりながら、全社で支援していく体制づくりが大切です。

最後の「マネージャーが疲弊してしまう」という点は、全部現場任せになってしまっている問題です。たとえば従業員満足度のスコアが低い場合、改善施策を打ち出し、マネージャーの仕事を増やして問題解決を図ろうとするケースも見受けられます。数値が低いのはマネジメント以前の課題かもしれないため、マネージャーに任せてもどうしようもない可能性があります。

従業員満足度を向上させる取り組みを解説
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スコアが低い場合は、人事部や関係者間で対話の機会を設けることが大切です。マイナス部分に向き合って改善していくことが、全社的に組織を良くしていくことにつながります。

ウェルビーイングを実現するために

ウェルビーイングが何を指しているのかを、まず定義することが大切です。私としては、客観的な指標だけでなく、主観的な一人ひとりの幸福の基準を満たしていくアプローチがいいと思います。

可視化するときの課題としては、サーベイを正しく理解し、本質的に意味のある活用をすることです。ただやればいいというわけではありません。サーベイをやることで、どのような認識のズレが生じやすいのか把握し、社内で実施目的や活用方法に関する共通認識を持つように心がけましょう。先に述べたような課題にぶつかったときの対処法についても、正直な回答を促すために、目的を明確に説明して回答しやすい状態を作ったり、結果の扱い方や対処方法について管理職やマネージャーに事前に研修を実施しておくなど、運用の仕組みの中に取り入れることが大切です

メンバーとの個別面談では、充実感の低い人にどうアプローチしていくかを考える必要があります。ウェルビーイングの要素であるエンゲージメントを高める要因には、大きく2つがあります。「仕事の資源(裁量度や適切な評価・フィードバックがもらえるなど、仕事のエネルギー源につながるもの)」と「個人の資源(楽観性や自己効力感など、個人の考え方や価値観・態度に関するもの)」です。これらを高めることを意識しながら、サーベイ結果を使いながら柔軟なリーダーシップを発揮してみるとよいでしょう。一人ひとりの状態を上げていくことが、全体的なウェルビーイング向上につながります。※「仕事の資源」と「個人の資源」は、エンゲージメントに関する仕事要求度ー資源モデル(JD-Rモデル)に基づく用語です。

重要なのは、対応や施策を実施する側も、ひとりで抱え込まないことです。困ったときに相談できる体制を、社内に設けておくよう心がけましょう。

 サーベイの運用は、悩みの解決に似ています。人間ドックや健康診断もそうですが、定期的に自分の悩みや身体の状態を診断し、よくない部分に向き合って治療しようとすることは、健康にとってとても大切なことですよね。サーベイも同様で、虫歯を放置したり、弱った足腰や、自分の苦手なスキルを獲得することに向き合わなかったりと、「自分にとってマイナスな要素」を見て見ぬ振りをすることは、中長期的にジワジワとダメージを蓄積していきます。

上手くいっていないところを見つけ、部分的に対応していくことで、全体的なポジティブな状態がつくられていきます。ぜひ、サーベイ実施をきっかけに、組織と従業員の悩みに向き合い、より良い状態をつくることを目指して行動していただけることを願っています。

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